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髙木真介の新スペイン便り
12.岡山新堀ギター・スペインツアー2011・後半 (2011.9.24)

 いかがお過ごしですか? 前回に続き、岡山新堀ギターオーケストラのスペインツアーの様子を日記風にお伝えいたします。後半は、コミーリャス、シグエンサ、ブイトラゴで行われた3回の演奏会を中心にお話しします。

岡山新堀ギターオーケストラ・スペインツアー 2011 (2)

7月27日(水) : 今日は今回のツアーの初めてのコンサートがある。午後コミーリャスに移動するまでフリーだ。 久しぶりに朝寝坊を楽しむ。 希望者は午前中近くのサンティリャーナ・デル・マールに散策に出かけた。中世の面影が残る古い街並みがとても美しい。

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(中世の面影が残る美しい町サンティリャーナ・デル・マール)

 スアンセスに残った人たちは、ホテルでゆっくり休んだり、練習をしたり、海岸を散歩したり、とそれぞれ自由に過ごした。海水浴を楽しんだ若者もいたようだ。シエスタの後、午後4時半、楽器をバスに積み込んでコミーリャスに向けて出発。ここからバスで40分ほどの移動だ。コミーリャスの音楽フェスティバル “カプリーチョス・ムシカレス” は、今年で8回目、夏のコミーリャスの文化イベントとしてすっかり定着している様だ。私自身も何回か出演しているが、岡山新堀ギターオーケストラも今回で3回目。前回、もしくは前々回のツアーに参加した団員にとってはホームタウンのように感じられる。おなじみの教会の広場で、チェリストのセルゲイ・メスロピアンと待ち合わせ。チェロと大きな鍵を持ってセルゲイが現れると、皆拍手で迎えた。一通りの挨拶の後、セルゲイは手に持っていた大きな鍵で教会の裏門を開け、皆中に入った。早速舞台設定をして音出しだ。ここの音響はとても心地よい。音像がぼやける事無く、柔らかく豊かに響いてくれる。いよいよ開場の時間だ。大勢お客さんが来てくれた。岡山新堀ギターの出演を待っていてくれたファンも結構いる。今夜のコンサートがフェスティバル初日。開演前、我々にとって顔馴染みのコミーリャス女性市長が挨拶し、ギター合奏団を紹介した。

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(フェスティバルのポスター)     (演奏会場のコミーリャスの教会)

 温かく見守る聴衆のもと、 適度な緊張感と躍動感のある演奏で、バッハ(ヴァイオリン協奏曲第2番第1楽章~アルトチェンバロギターソロ 中谷貞夫&石黒和夫)そして、ビバルディ(バスーン協奏曲Ⅱ・Ⅲ楽章~バスギターソロ 中谷匡志)とプログラムは進んでいく。次の中谷貞夫&匡志の親子によるチェンバロ・ギター二重奏の「グリーンスリーブス変奏曲」はとても繊細に響いた。チェロのセルゲイは、チャイコフスキーの「夜想曲」を歌心たっぷりでとてもロマンチックに、そして続くピアソラの「リーベルタンゴ」では軽快なリズムで楽しく共演し、大きな拍手を浴びていた。セルゲイはこのフェスティバルの音楽監督の一人でもあり、コミーリャスでは人気者だ。5人のソリストをフィーチャーした「さくら変奏曲」では、箏にも似た音を用いてとても伝統的な日本を、そして世界的に知られる宮崎アニメの 「ハウルの動く城」からの2曲では、現代的な日本を非常に巧みに表現していた。私は「アランフェス協奏曲・第二楽章」で共演させてもらったが、 中谷貞夫氏の優れた指揮のもと、オーケストラの素晴らしい演奏に支えていただき、大変気持ち良く演奏できた。プログラム最後の”クラベリートス”(お前のカーネーションをおくれよ)は、スペインではよく知られた歌であり、岡山新堀ギターオーケストラのダイナミックな演奏に、最後の和音と共に歓声と大喝采が沸き起こった。アンコールの「トリッチ・トラッチ・ポルカ」のウキウキする様な小気味好い演奏には、聴衆もすっかり魅了されていた。拍手が鳴り止まずアンコールをもう一曲、私もステージに呼ばれ一緒に「アルハンブラの思い出」を演奏した。新堀寛己氏編曲のギター合奏による「アルハンブラ」は大変素晴らしい。拍手が鳴り止まず、指揮者の中谷氏と合奏団は、いつまでも聴衆のスタンディング・オベーションを受けていた。こうして今回のツアー第一回目のコンサートは大成功を収め、一同ホッとすると共に大きな喜びを感じた。

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(大喝采にこたえる指揮者の中谷貞夫氏) (終演後そろって記念撮影。前列真ん中がセルゲイ) 

28日(木) : カンタブリア地方を後にしてシグエンサに向かって出発。ブルゴスを通り過ぎ、アランダ・デル・ドゥエロの近くの大きなドライブインで少し早めの昼食。その後カスティーリャのいくつかの小さな町を通過し、シグエンサのすぐ近くの山を一つ超えたところで、突然眼前に大きなお城が現れた。そう、これが今日の宿泊地であるシグエンサのパラドール(国営のホテルチェーン)だ。皆昼寝から目を覚まし、歓声を上げながらバスの窓越しに写真を撮り始めた。

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(シグエンサのパラドール)

 パラドールに到着、興奮気味に各自部屋に荷物を運んだ後、 石畳の坂を少し下りたところにあるカサ・ドンセルに歩いて行く。この古い建物の中にあるギター博物館で、ロマニリョス夫妻が待っていてくれた。我々を見ると笑みを浮かべて歓待してくれた。先ず、そっくり再現されたサントス・エルナンデスの工房に案内してくれて、自らいくつかの工具を手にとり、使い方や作業の仕方などを説明してくれた。氏の説明を興味深く聞き、展示してある数々のギターを眺め、最後はサイン会と撮影会になった。ロマニリョス氏は気さくに皆の要望に応じてくれた。見学後、建物の前でロマニリョス夫妻を囲んで記念撮影。

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(このギター博物館に関しては、すでに 新スペイン便り、その9 に詳しいことが書いてありますので、まだの方はついでに読んでみてください)

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(パラドール前の広場)                  (演奏会場になったパラドール内「戴冠の間」入口)

 この日のコンサートは、ロマニリョス・ギター協会主催のスパニッシュギターに関する講演会やコンサートによるいわばギターフェスティバルの初日だ。リハーサルのためにパラドールに戻る。実は今夜の演奏会の会場は、このパラドール内の大きなサロン「戴冠の間」だ。客席も演奏用の椅子もすでに綺麗に並べてあったので、すぐ音出しができた。リハーサル後一旦部屋に戻り、着替えなどの準備をする。そのまま部屋から楽器を持っておりてくるとそこが演奏会場! というのはとても便利だ。会場のサロンは超満員。立っている人も大勢いる、と言うか、むしろ座っている人よりはるかに多い。「座席は120あまり用意してあったけど、とてもじゃないけど足りないわ!」 と奥様のマリアンさんが興奮気味に言う。宣伝が功を奏したのか、予想をはるかに上回り300人ほど集まった様だ。開演に先立ち、ロマニリョス氏が挨拶をする。3月に起きた東日本大震災と、数日前ノルウェイであった惨殺事件の被災者や被害者の冥福を祈るため、一分間の黙祷を促した。一分間の静寂を破って沸き起こる大きな拍手。この黙祷を通じて、聴衆と演奏者が一体となった感じだ。熱気に包まれて、熱い演奏が繰り広げられた。立ち見の人が多いにもかかわらず、あまり雑音も立てず非常に熱心に聞いてくれ、曲間には盛大な拍手をしてくれた。サロンコンサートの持つ良さが出て、親近感一杯のとても良い雰囲気の中で演奏会が終わった。今日もスタンディング・オベーションだ。終演後様々な人が祝福してくれた。主催者であるロマニリョス夫妻も大変ご満悦だった。そのままパラドールのレストランで夕食。団員の顔には満足感が溢れ、とても和やかな夕食になった。デザートにさしかかったところで、サプライズ! シャンパングラスが我々の各テーブルに配られ始めた。給仕長がロマニリョス氏の耳元に囁く。「あちらの一番奥のテーブルにお座りのお客様が今夜の素晴らしいコンサートに感動したので、皆様に感謝と敬意を表して一杯ご馳走したい、とのことです」。この嬉しい申し入れをもちろんありがたく受け入れ、今日の成功を祝ってロマニリョス氏の音頭で改めて乾杯した。

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(ロマニリョス氏、開演前の挨拶)              (ビバルディを熱演するバスギター奏者中谷匡志氏)

29日(金) : ぐっすり眠り朝食を取る。荷物をバスに積み込んでから、予定を変更、2時間ほどフリータイムにして、シグエンサの町を散策することにした。中世の面影が残る美しい街並み、風情のある石畳、パラドール周辺の景色。憩いのひと時を味わった。大聖堂に入ると、荘厳なオルガンの音が鳴り響いていた。街中で売っている地方新聞の第一面に、昨日のコンサートの記事がカラー写真付きで大きく報道されていた。

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(地方新聞”NUEVA ALCARRIA”の第一面に大きく掲載された写真)

 シグエンサを発ち、今日の宿泊地アルカラ・デ・エナーレスに向かう。バスで1時間ちょっと。アルカラも古い町で世界遺産に指定されている。「ドン・キホーテ」を書いたセルバンテスの生家があり、現在博物館になっている。町の中心セルバンテス広場から、情緒あるマヨール通りを歩き、この博物館に見学に行った。内部の家具の配置など、当時の生活振りを想像できる様に上手く再現されている。

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(セルバンテス生家博物館の前のベンチに座って説教するドン・キホーテと黙って聞くサンチョ・パンサ)

 つかの間の散策の後、郊外にあるホテルにチェックイン、そのままそこで昼食をとる。シエスタの後、バスで今日の演奏会がある町、ブイトラゴ・デル・ロソーヤに向かう。途中急に天候が変わり、激しい雨がバスの窓に当たる。「うわー、ヤバイ!」隣に座っていたセルゲイの顔を伺うと、彼の顔もこわばっている。なぜなら今日の演奏会場は野外だからだ。しかし、少し経つと幸い雨も止み、青空も見える。通り雨と言うか、たまたま雨雲がある下を我々が通過したのだろう。ブイトラゴはマドリードの北80kmほどのところにある。川が大きく蛇行している中島の上にある、城壁に囲まれた趣のある古い町だ。

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 コンサート会場は、廃墟化した古城の中にある「武装の広場」と呼ばれる円形競技場のようなところだ。ブイトラゴでは毎夏この会場を使って、市役所主催の音楽フェスティバルが行われている。今夜の我々のコンサートも、フェスティバルに組み込まれている。ブイトラゴ市長が直々迎えてくれた。城門をくぐりローマ時代のコロシアムのような会場に入る。客席にはたくさんの椅子が並べられてあり、仮設ながら立派なステージが設けられている。なかなか良い雰囲気だ。ここではPAを使うので、早速サウンドチェックだ。団員がステージをセッティングし、エンジニアのアンヘルが手早くマイクを配置していく。しかしすぐには上手くいかない。しかも曲によって演奏者の配置が変わるので、アンヘルもかなり苦労している。何度も配置換えをしながら、ようやくセッティングが決まる。演奏者の配置は曲ごとに動かさず、なるべく固定することにした。アンヘルも初めて扱うギター合奏に次第に慣れてきて、音のバランスもとても良くなってきた。気がついたら開場時間が迫っていたので、リハーサルを切り上げて会場近くに控室として用意してくれた音楽学校で着替え、コンサートに備える。

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 開演午後10時。大きな会場なのでさすがに満席にはならなかったが、大勢の人が来てくれた。夕涼みがてら気軽に音楽を楽しんでいくという感じで、他のコンサートに比べると緊張感はあまりないが、今回のツアー最後のコンサートでもあり、ライトアップされた古城の幻想的な雰囲気の中、団員全員のびのびと演奏を楽しんだ。ここではスタンディング・オベーションはなかったが、「クラベリートス」では歌い出す人たちや、アンコールの「トリッチ・トラッチ・ポルカ」では手拍子をする人たちもいたりして、お客さんも楽しんでくれたようだ。終演後、控室になっていた音楽学校内で、市長さんの振る舞いでビールやワインとタパス類で打ち上げ。こうしてツアー最後の晩は楽しく更けていった。

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30日(土): 昨夜夜中の2時ごろホテルに着き荷造りをして、朝5時半にはモーニング・コール。6時半にホテルを発ち、まだ早い時間なので渋滞もなく7時頃にマドリード・バラハス空港に着いた。団体だし荷物も多いので、チェックインにはかなり時間がかかる。1週間のツアーの疲れと昨夜の寝不足とで皆さん、さすがに疲れきった顔で順番を待っていた。何とか無事にチェックインも済み、搭乗まで時間が結構あるが、免税店などでスペインでの最後の買い物を楽しむということで、再会を約束してここで皆さんとお別れした。ご苦労様でした!

あとがき : 幸い、ツアー中大きなトラブルもなく、3回のコンサートはどこも大盛況だったし、ツアー中の観光や食事も存分に楽しんで行ってくれたし、ハードスケジュールにもかかわらず、参加者全員健康のまま無事に帰国できた。
今回のツアーでも多くの人たちにお世話になった。旅行関係全ての手配をしてくれた旅行代理店のパウロ。その上司で、はるばるサンタンデールからバルセローナまで迎えに出てきてくれたホセ・ルイス。1週間常に上機嫌で我々を運んでくれたバスの運転手マルコス。コミーリャスとブイトラゴのコンサートをアレンジしてくれ、3回のコンサートに付き合ってくれたチェリストのセルゲイ。コミーリャス市長と市役所の方々。シグエンサのロマニリョス夫妻。温かく接してくれたブイトラゴ市長のアンヘル。ブイトラゴでPA担当してくれたもう一人のアンヘルと、フェスティバルのスタッフの皆さん。前回、前々回同様今回も日本から添乗員として同行してくれた藤原さん。バルセローナの観光ガイド、フェリーペ。我々のためにいろいろ便宜を図ってくれた宿泊先の全てのホテル。そして、ツアーに参加してくれた中谷貞夫氏率いる岡山新堀ギターの皆さん。心から感謝の言葉を述べたい。

 以上で今回のスペイン便りは終わりです。「岡山新堀ギターオーケストラ・スペインツアー2011」の様子を2回にわたってお伝えしてきました。長々したレポートになってしまいましたが、最後まで読んで下さりありがとうございました。

それでは、またお目にかかりましょう。ごきげんよう。


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