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髙木真介の新スペイン便り
5. マドリード・聖イシドロ、第5回バレンシア国際ギター週間ほか(2007.5.16)

 皆様お元気でいらっしゃいますか? 久しぶりのスペイン便りです。今回は、マドリードの聖イシドロ祭、バレンシアのギター・フェスティバルと、グラナダで行われる音楽・舞踏フェスティバルの話題をお届けします。それから、今回から新企画「スペイン、僕のお気に入りの場所」を開始します。私が今まで行ったスペイン国内の各地から、特に気に入っているところを個人的な感想などを交えて、エッセイ風にご紹介しようというものです。


マドリード・聖イシドロ祭
    SAN ISIDORO

 毎年5月15日は、マドリード市の守護聖である聖イシドロのお祭りです。この祭りにちなんで、フェリア・デ・サン・イシドロという闘牛のシリーズがあり、6月上旬まで毎日ベンタス闘牛場で闘牛が開催されます。スペインの闘牛シーンにおいて、このサン・イシドロの闘牛は最も権威のあるもので、このシリーズに登場できるということは、闘牛士にとって最も栄光のあるものです。ましてや、ここで成功を収めることは、その後のキャリアにも大きく影響します。1万人を収容するマドリードのベンタス闘牛場には、サン・イシドロの間、毎日熱狂的な闘牛ファンがつめかけます。熱狂的なファンというより、一人ひとりが辛辣な闘牛評論家であるといっても過言ではありません。牛の質が悪かったり、闘牛士が良い演技を見せることができなかったりすると、ものすごいブーイングの嵐が起こります。とにかく出場する闘牛士にとって、眼前の獰猛な牛だけでなく、少しのミスをも許さない回りで見ている観衆自体も敵のような状態で、その上にかかるプレッシャーは並々ならないものだと思います。ですから、3週間毎日続く闘牛で、成功を収めることのできる闘牛士は、ほんのわずかです。このシリーズでは、有名な闘牛士が登場する日はおろか、いかなる日の入場券をゲットするのも非常に困難なことのようです。

 闘牛の話はさておき、もう少しこの聖イシドロ祭についてお話します。お祭りの間、闘牛とは別に、文化的なイベントも数多く開催されます。そのうちのひとつに、今年は特筆すべきイベントがありました。マドリード市内の中心に、市民の憩いの場として広く知られる、広大なレティーロ公園があります。この公園の中心には、大きな人工池があります。休日には、行楽客が大勢集まり、池ではボート遊びの人たちでにぎわいます。今年の聖イシドロ、ビッグ・イベントとして、その池の水面に特設ステージが設けられ、バレエの公演がありました。プログラムは、有名なチャイコフスキーの「白鳥の湖」でした。そして、このバレエの主役は、マドリードが生んだ天才バレリーナの Tamara Rojo / タマラ・ロホでした。彼女は、英国ロイヤル・バレエのプリンシパルで、現在バレエ界の世界最高峰の一人です。日本でも、バレエ・ファンの間では 、タマラ・ロホの名はよく知られているようです。水面に設置されたステージの上で、タマラ・ロホの美しいバレエは、まるで湖水の上を優雅に舞う白鳥を見るようでした。

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第5回バレンシア国際ギター週間
V JORNADAS INTERNACIONALES DE GUITARRA DE VALENCIA

 バレンシアにおいて、ギターに関するイベントがあります。5月31日から6月3日まで4日間、毎日合計5つのギター・コンサートが開かれます。16,17,18世紀のヨーロッパの宮廷音楽で奏でられたギターのための音楽を中心に、プログラムが組まれています。フェスティバルというほどの大きな規模のものではありませんが、とても興味深いイベントだと思います。また、6月2,3日の2日間、著名なギターリストCARLOS BONELLによるマスター・クラスも開かれます。

  ・5月31日〔木〕19時 JUAN CARLOS RIVERA〔スペイン〕
ビウエラとバロック・ギターのコンサート

  ・6月1日〔金〕19時 THIBAULT CAUVIN〔イギリス〕
   ギター・リサイタル

  ・6月2日〔土〕19時  GIOVANNI GRANO〔イタリア〕
   弦楽四重奏(Cuarteto Amadeus)との共演。

  ・6月3日〔日〕12時 CARLES PONS〔フランス〕
   ギター・リサイタル

 以上のコンサートは、バレンシア市内のCAMPOAMOR通りにある、CONSEJALIA DE JUVENTUD(青少年会館)のホールで、開かれます。

  ・6月3日〔日〕19時30分 DUO CUENCA〔スペイン〕
   特別コンサート

 日本でも有名なクエンカ兄弟(ギター&ピアノのデュオ)による特別コンサートは、ギターの巨匠アンドレス・セゴビアの没後20周年(6月3日はマエストロの命日)を記念し、PALAU DE LA MUSICA(バレンシア音楽堂)で開かれます。そして、このコンサートにおいて、バレンシア地方アルコイにあるギター・メイカーALHAMBRAにより、この機会のために特別製作されたギターが発表されます。

 

 第56回グラナダ国際音楽・舞踏フェスティバル

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      “Festival Internacional de Musica y Danza de Granada” という名称で、毎年グラナダで行われている音楽・舞踏フェスティバルです。今年は、第56回目で、6月22日から7月8日まで開催されます。今回のフェスティバルは、「パリのスペイン人たち」というテーマが掲げられています。中世から現代までのスペイン、フランス間での互いに影響しあった音楽が中心に、プログラムが組まれています。また、マヌエル・デ・ファリャがパリに就いたのが1907年、それからちょうど100年経ったことも密かに記念しています。交響楽、リサイタル、古楽、バレエやフラメンコなど、非常にバラエティに富んだプログラムが組まれています。

 今回はテーマに沿って、フランスからの音楽家の参加が多いです。このフェスティバルでは、グラナダにあるアルハンブラ宮殿敷地内の建物なども会場として使われます。カルロス5世の宮殿内のパティオでは、音響が良いので、オーケストラやオペラなどの公演があります。また、夏の離宮だったヘネラリーフェにある、この上ない環境の野外劇場で開催されるバレエやフラメンコ舞踏などの鑑賞は、夢の中での出来事のようです。

 このフェスティバルには、コンサート、オペラ、バレエなどの公演と平行して、音楽講習会も開講されます。

 プログラムや講習会などの詳しいことは、下記のフェスティバルのウェッブ・サイトでご覧ください。スペイン語の他、英語版もありますし、チケットもオン・ラインで購入できます。

http://www.granadafestival.org

 今回のスペイン便りはここまでですが、冒頭に記しましたように、今回から新企画「スペイン、僕のお気に入りの場所」も掲載します。第1号は、グラナダ・フェスティバルとも密接な関係にあり、ギターリストにとっては聖地のような「アルハンブラ宮殿」です。どうか、スペイン便りと併せて読んでみて下さい。それでは、またお目にかかりましょう。ごきげんよう。

2007年5月15日、マドリード、髙木真介

Masayuki Takagi

スペイン、僕のお気に入りの場所・その1

「アルハンブラ」

 あれは、僕が中一のときだったと思う。ターレガの名曲「アルハンブラの思い出」を弾けるようになりたくて一生懸命練習していたころ、この曲がNHKのTV番組「名曲アルバム」で流された。その映像で初めて見たアルハンブラ宮殿に、本当に強い衝撃を受けた。この世にあんなステキなところがあるのかと、とても感動した。そのころから、いつかスペインに行ってみたい、そしてアルハンブラを訪れてみたいと思うようになった。あの5分ほどのTV番組が、僕の人生を変えたといっても過言ではない。二十歳のときにマドリードにギター留学、そしてその翌年、長年の夢がかない、初めてアルハンブラをこの目で見ることができた。それ以後、何度この地を訪れたことか。

 アルハンブラの中で、アルカサバ(城塞)と呼ばれる部分は最も古いところだ。自然をうまく利用した要塞で、小高い丘の上に建っている。なるほど、ここは外から簡単には攻略できなかっただろう。ベラの塔という高い見張り塔が建っている。ここからは四方を見渡せる。下でちょっとでも不審な動きがあれば、たちどころに察知できたに違いない。だから、現在この塔に登ってみればわかるけど、ここからの眺めは実にすばらしい。カテドラルを中心としたグラナダの街並、アルバイシンやサクロモンテ、ネバダ山脈など一望にできる。

 アルハンブラは、古い城塞も、宮殿も、そしてヘネラリーフェと呼ばれる離宮も全てひっくるめて、“LA ALHAMBRA” と呼ばれている。アルカサバの近くに、後から宮殿が建てられたわけだ。ナザリエスの宮殿。この部分が、所謂アルハンブラ「宮殿」だ。城砦として機能していたアルカサバとは違って、王たちが贅を凝らし、快楽的に過ごすために作られたものだ。ここでは見るもの全てが美しく思えて、やたらに写真を撮りまくってしまう。イスラム文化にとって、贅沢の極致であった水をふんだんに使ったパティオのあるコマーレスの塔。ハーレムだったライオンのパティオ。全ての欲情を発散した浴場。これはつまらない駄洒落ではなく、本当にそうだったようだ。王たちは、この浴場で好き勝手な破廉恥な振る舞いをするため、その場で音楽を奏でていた楽士たちの目をつぶさせたのだ。中世イベリア半島におけるイスラム王国の最後の砦グラナダの地で、このアルハンブラ宮殿は、衰退の一歩手前・末期的栄華の印、最期の光を放ったところなのだろう。

 さて、僕が個人的にこのアルハンブラの中でも一番好きなのは、夏の離宮として作られたヘネラリーフェだ。ヘネラリーフェとは、「天上の楽園」という意味だ。この世にありながら、天上の楽園を味わおうという大胆な魂胆を持って作られたのだ。下の写真をご覧ください。

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 これがヘネラリーフェの庭だけど、僕は長い間、この庭のあるところが、アルハンブラ宮殿そのものだと勝手に思い込んでいた。ネバダ山脈の雪溶け水をふんだんに使った噴水、四季の花々、鳥たちのさえずり。これは文字通り「楽園」そのものだ。「滅びの美学」というか、すぐ目の前に迫った没落、せめてその日が来るまでは思い切り贅沢をしよう、死が訪れる前にこの世の「仮想の楽園?」で、できるだけ甘ったるい日々を過ごそう、という人間のエゴの塊みたいなものを僕は感じるのだ。人間の弱さ、愚かさや脆さ、人生のはかなさ、そんなものを感じさせられるこのヘネラリーフェ。ターレガのトレモロは、ここの噴水の音そのものだ。あの切ないメロディーは、いつか幕を閉じなければならない人生のはかなさそのものだ。そんなことを考えさせてくれるこのヘネラリーフェの庭が、僕は大好きなのです。

髙木真介 / Masayuki Takagi


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