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髙木真介の新スペイン便り
6. リナーレス国際ギター・フェスティバル、他(2007.9.6)

日本では暑さの大変厳しい夏だったようですが、皆様お元気でいらっしゃいますか? 
9月になり、マドリードもようやく夏のバカンス・モードから抜け、またもとの活気が戻りつつあります。今年のスペインの夏は冷夏というか、例年に比べると気温が低めで、暑がりの人にとっては過ごし易い夏、暑い夏大好きな人にとっては物足りない、スペインの夏らしい猛暑日も少ないとても変な夏でした。それでも多くの人々は、様々な形で8月のバカンスを楽しみ、リフレッシュ&リチャージして、新しいシーズンを迎えています。

さて久しぶりのスペイン便り、今回は、今年11月にリナーレス市で行われる国際ギター・フェスティバルの話題を中心にお届けします。

それから、前回から始まった企画「スペイン、僕のお気に入りの場所」も連載中です。私が今まで行ったスペイン国内の各地から、特に気に入っているところを個人的な感想などを交えて、エッセイ風にご紹介しています。

 

リナーレス市アンドレス・セゴビア国際ギター・フェスティバル

Encuentro Internacional de Guitarra
Ciudad de Linares  “ANDRÉS SEGOVIA

 スペイン語では、ENCUENTROという名称になっていて、「出会い」とか「会合」とか言う意味ですが、日本語ではどうにもゴロが悪いので、フェスティバルと訳しました。内容的にも規模的にもフェスティバルと題してもおかしくないと思います。今年で16回目になるフェスティバルの開催期間は、11月5日から18日まで、ギター・コンサート、講習会、そして国際ギター・コンクールが、ハエン県リナーレス市で開かれます。このフェスティバルの芸術監督は、ギター&ピアノ・デュオで日本でもおなじみのクエンカ兄弟が務めています。
国際コンクールは、11月17日、18日の両日に行われ、予選と本選の2ステージ制になっています。優勝者には、3000ユーロ(約50万円)の賞金の他、手工ギターや、次回の当フェスティバルやヨーロッパ各地でのコンサート契約などの副賞が与えられます。第2位には2000ユーロ(約32万円)、第3位には1000ユーロ(約16万円)の賞金が与えられます。

 コンサートのほうは、開催期間中毎晩ひとつずつ、合計14あり、ソロやデュオ、ギター五重奏、オーケストラや弦楽五重奏との共演、他楽器とのアンサンブルなど、バラエティーに富んでおり、出演者の国籍も様々で、大変国際色豊かな顔ぶれになっています。ベルギーの優れた女性奏者ラファエラ・シュミッツ、ギリシアの名手コスタス・コチョリスなどは、日本のギター愛好家にも良く知られた名前でしょう。そして、日本からは荘村清氏が出演します。

 フェスティバル開催中、出演者による講習会も4つ開かれます。

 詳しい内容は、下記のサイトにアクセスしてみてください。英語とスペイン語の2バージョンあり、単純明快なページです。コンクールのルール、コンサート出演者の写真、講習会の内容などが、紹介されています。リナーレス市内のホテル・リストも載っているのは親切だと思います。 >>http://www.segoviaguitarra.com/

 ところで、あなたはリナーレスという地名を聞いて何か思い当たりますか? 「もちろん」と答えた人は古くからのギターファンでしょう。リナーレスは、スペイン南部アンダルシア地方、ハエン県にある人口6万人ほどの市です。ハエン県にはオリーブ畑が広がっていて、スペイン料理には絶対欠かすことのできないオリーブ油の名産地です。グラナダより北に位置し、観光地としてはほとんど知られていないので、ご存知の方は少ないでしょう。リナースで私の頭に思い浮かぶのは、チェスの世界選手権が行われる町ということと、フラメンコの有名なカンタオーラ、カルメン・リナーレス。名前(多分芸名だと思いますが)のとおり、リナーレス出身です。それから我々ギター愛好家にとって最も重要なことは、実はリナーレスはギターの神様アンドレス・セゴビアの出生地なのです。それで上記のギター・フェスティバルにも、マエストロの名前が掲げられているわけです。市内には、セゴビアの偉大な功績を記念して、銅像が建っています。また、アンドレス・セゴビア会館( FUNDACION ANDRES SEGOVIA )もあります。この会館は、17世紀に建てられたオロスコ宮殿の建物が使われ、2000年8月にオープンしました。2階は博物館のようにもなっており、マエストロに関する様々な品(ギターも数台)が展示されています。また、建物の地下には、パンテオン(納骨所)が作られマエストロの亡骸が眠っています。セゴビアの亡骸は、埋葬されていたマドリードから、2002年6月4日にこのパンテオンに移され納骨されました。死んだら生まれ故郷のリナーレスに埋めてほしいという生前のマエストロの希望がかなったわけです。会館内にはちょっとした多目的ホールもあり、定期的にコンサートなども開かれています。また、会館の敷地内にある庭では、夏にイベントが催されるそうです。上述のギター・フェスティバルに組み込まれたコンサートのほとんどは、このセゴビア会館のホールで行われます。

 このセゴビア会館、まだあまり知られていませんが、クラシック・ギターを愛するあなたもいつかはギター巡礼の地として訪れ、マエストロのお墓の前で合掌する機会を持たれればと思います。

セゴビア会館のページには、下記のサイトにアクセスしてください。 >>http://www.segoviamuseo.com/index.htm

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 今回のスペイン便りはここまでですが、「スペイン、僕のお気に入りの場所」も掲載します。今回で第2号になりますが、スペイン便りと併せて読んでみて下さい。それでは、またお目にかかりましょう。ごきげんよう。

 

2007年9月3日、マドリード、髙木真介

Masayuki Takagi

 

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スペイン、僕のお気に入りの場所・その2

「魔法の部屋、12号室」

 僕は、美術館や博物館めぐりが好きだ。旅行に出かけたときは、行く先々で有名無名にかかわらず、必ずそういうところを見学するようにしている。だからといって、特別美術に詳しいわけではない。

 僕の住むマドリードには、有名なプラド美術館がある。プラド美術館は言うまでもなく、マドリード市内では一番人気のある観光スポットだ。マドリードに観光旅行に来たら、必ず立ち寄るところだろう。ここを訪れるのに、美術に詳しいとか特別美術好きである必要はない、と思う。有名で重要な絵画作品がたくさんあるからということはさておいて、何も知らずにただ見て回るだけでも、感銘を受ける作品に必ず出会えると思う。

 さて、このプラド美術館は僕も大好きなところで、気が向くと時々絵を眺めに行く。特に日曜日に行くことが多い。日曜日は入館無料だからだ。朝9時に開館だけど、そのちょっとあと、9時15分ころ行くといい。なぜなら、開館を待っていた人たちは入館し終わり、入り口付近に人が少なく、列に並ばずに入れる。だから美術館内も空いていてゆったりと見学できるが、一時間もするとだんだん人が増えてくる。僕はいつも大体2時間ぐらいで切り上げて出ることにしているけど、そのころには玄関前に入館を待つ人の列ができている。入館するに当たって危険物を持ち込んでいないか確かめるために、空港同様、手荷物をレントゲン・チェック機に乗せ、金属探知ゲートをくぐらなければならない。これが結構時間がかかる。だから、入館はまだ人の少ない朝一番に限る。

 プラド美術館で見て回る僕なりのルートが大体できている。勿論時には気まぐれでいつも見て回る以外の作品に時間をかけることもあるけど、必ず見る作品はいくつかある。まず、ボッシュの「快楽の園」。三部に分かれているあの摩訶不思議な作品はとても好きだ。エル・グレコのいくつかの作品。ムリーリョのやわらかい線で描かれた可愛い男の子と羊の絵、これを見ていると気持ちがとても安らぐ。ルーベンスの肉感的な三人の裸女の絵。カラバッジョやレンブラントも好きだ。それから、数多くあるゴヤの名作も見逃せない。そして最後はベラスケスの作品たち。

 もし、この中から一作品だけ選べといわれたら、迷わずベラスケスの描いた“LAS MENINAS”「女官たち」を選ぶだろう。パリのルーブル美術館にあるダ・ビンチの「モナリザ」のように、ベラスケスの「女官たち」はプラド美術館で人気ベスト・ワンだ。二次元であるはずの絵画作品の中に、三次元の空間が広がっている。離れて見ると、描かれているサロンとそこにいる人物たちが、実際に存在しているかのような錯覚を受ける。空間を一枚の絵の中に浮き立たせる最高峰の技術、巧妙な光の使い方、そして様々な論議を醸し出している不思議な構図。あの天才ピカソもこの絵をモチーフに、何枚もの作品を残している。勿論ピカソのアプローチは全く別だけど、バルセローナのピカソ美術館にある「女官たち」のモチーフの作品の多さは異常ともいえる。ピカソにしてあれだけ執拗に描かせたのも、やはりこの絵に何か強く感ずるところがあったに違いない。

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(ベラスケス 「女官たち」)

 さて、プラド美術館・12号室。他の部屋に比べてかなり広く、部屋というよりホールと言ってもいい。ここにベラスケスのいくつかの名作と共にこの「女官たち」がかかっているのだ。僕は、作品自体もものすごく好きなのだけど、この作品がかかっているこの12号室がとても気に入っている。大きな絵なので、それを鑑賞するにはそれなりの大きな部屋が必要だ。この12号室は単に大きいだけではなく、楕円形をしていて、かなり遠くに離れてこの絵を鑑賞できるように配慮してある。というか、そうしてこそ、この絵の真価というか凄さを理解できるのだ。大概の見学者は、続き部屋にある他のベラスケスの作品を見た後、楕円の長い部分の真ん中にある入り口からこの部屋に入ってくる。それで、右手を向くとこの絵に出くわす。多くの人が「ああ」とか「ほおお」とかため息交じりの感嘆詞を漏らす。超有名な絵を自分の目で実際に見ているのだから。手にしたガイド・ブックなどと見比べて、「ああ、この絵だ。ベラスケスの女官たち。ほらこの本に載っているのと同じだ」とか言いながら、おもむろに絵に近づいていく。しかし絵は大きいので、近づきすぎるとその奥行きの深さが分からなくなってしまう。勿論、近くで見るベラスケスの正確無比な写実力には驚かされるのだけど・・・。見上げていると首が疲れてくる。そして、誰もが少しずつ絵から離れていく。絵をじっと見ながら後ろ向きに歩いていくから、時には他の人とぶつかったりする。部屋の真ん中あたりまで来て立ち止まり、そこに描かれている空間のリアルさに改めて驚く。さらに楕円の反対側の頂点に向けて少しずつ離れて行く。真ん中にいる光を受けたマルガリータ王女の姿が、まるでスポットライトを浴びているかのようにさらに浮き出てくると同時に、絵の中のサロンの空間がぐんぐん広がっていく。一番奥にいる人物が、本当に部屋の向こう側からドア越しにこちらをのぞいているような感じがする。これは一種のマジックだ。このマジックには、何度接しても飽きることがない。そして、このマジック・ルームでは、その時その時で居合わせる人たちは違うけれど、ほとんどみんな魔法にかけられたような同様な反応を見せる。それを見るのも楽しみのひとつだ。そんな不思議な体験をさせてくれる、ベラスケスの超大傑作「女官たち」がかかっているプラド美術館の12号室は、僕のお気に入りの場所だ。

髙木真介/ Masayuki Takagi


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