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髙木真介の新スペイン便り
7. デュオ・マルティネス・タカギ、アルジェリア演奏旅行(前編)、他(2008.3.2)

 皆様お元気ですか? 久しぶりのスペイン便りです。今年のスペインは暖冬で、春先のような天気がずっと続いています。さて、先日アルジェリアに演奏旅行に行ったので、そのときの様子をお伝えします。今回と次回の二つに分けてお届けします。
デュオ・マルティネス・タカギ、アルジェリア演奏旅行(前編)

インスティテュート・セルバンテス(セルバンテス文化協会)のアルジェリア(オラン&アルジェ)支部に招待され、デュオの相棒ビセンテ・マルティネス(フルーティスト)と演奏旅行に行ってきた。セルバンテス文化協会というのは、スペイン語を中心にスペイン文化を海外に広めるためのスペイン国営の教育機関で、世界中に60近くものセンターがあるそうだ。東京にもひとつある。

 1月25日にマドリードからアリカンテに飛び、飛行機を乗り継いでオランに到着、翌26日にオラン、27日に首都アルジェで公演、28日はアルジェからマドリードに帰るという3泊4日のスケジュールだ。アルジェリアという国に関してはほとんど知識がなかった。モロッコとチュニジアの間にある北アフリカの国。旧フランス領。首都アルジェ。言葉はアラブ語とフランス語。天然ガスや石油が豊富。イスラム狂信者たちのテロ。元フランス代表の天才サッカープレイヤー・ジダンの両親はアルジェリア出身。そのくらいかな?
このツアーの日程が決まってから、まずマドリードにあるアルジェリア領事館にビザの申請に行った。領事館の受付ホールはなんとなく殺伐とした状態で、大勢のアルジェリア人らしき人たちがたむろしていた。受付の大柄の男性はちょっと強持ての顔で、無愛想に応対している。セルバンテス協会アルジェ支部長発行の招待状(オランとアルジェでセルバンテス協会主催の演奏会をすること、保険など必要な経費は同協会が持つことなどが書かれていた)を示すと、愛想が良くなり「ミュージシャン?楽器は何を演奏するの?歌もやるのですか?」などといろいろ聞いてきた。数日後には問題なくビザがもらえた。

 オランはアルジェリア第2の都市で、人口は150万人ほど。マドリードからイベリア航空でアリカンテまで約45分のフライト。そこでアルジェリア航空に乗り換え、40分ほどのフライト。マドリード~オランという直通便はないそうで、この乗換えはちょっと面倒だった。定刻通りオランに着いた。オランの空港では、セルバンテス協会アルジェリア支部長のドミンゴ氏とオラン支部の書記長アブドゥ氏が迎えに出ていた。ドミンゴ氏とは以前から顔見知りで、彼がモロッコ支部長をしていたときモロッコ各地での演奏旅行に招待されたこともある。気さくでよい人柄、そして仕事もよくできる男だ。また、博学な文化人であり、話を聞いていると面白い。フランス語が堪能なので、我々の通訳も務めてくれる。この日は特にすることがないので、ホテルに荷物を置いて、まずオランのセルバンテス協会のセンターに案内された。設備が整っていた。センターで働く人たちに歓待された。センターのいたるところに我々デュオのコンサート案内の大きなポスターが貼ってあった。スペイン語学生も何人か近寄ってきて、「明日コンサートするのですよね。楽しみにしています」と、とても愛想がいい。写真を一緒に撮ったりした。

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 その後、市内を案内してもらった。16世紀にはスペイン人が支配していた地区があるし、その後はフランス領だったので、旧市街はまるでヨーロッパの古い町並みだ。しかし、手入れが悪いのか、かなり老朽化しているのが目に付く、道路も舗装されてはいるがそこら中穴だらけだ。歩いている人たちの身なりもなんとなく貧しい感じがする。ものすごい交通量だ。しかも運転めちゃくちゃ。後部座席からは何度も他の車と接触しそうに見える。ドミンゴ氏いわく、「ここでは、とりあえず鼻を先に突っ込んだやつに優先権があるんだ」。でも冷静に見ていると、一見無秩序だけど、それなりに流れている。みんな運転がうまいということなのだろう。「ここはまだましだよ。アルジェなんて渋滞だらけで酷いものさ」。
小高い山のような半島があり、山頂には中世にスペイン人が建てた要塞があり、その膝元にサンタ・クルス教会がある。そこまで上った。眺めは美しい。すぐ目の下に港があり、そこから市街地が広がっている
町に下りてくると、目の前は漁港だった。魚を食べさせるレストランが軒並みある。この辺で食事をすることにした。まず、魚スープ、だしがよく効いていて素朴だけど美味しい。そして、えび、いか、舌平目の幼魚、etc. 全部この辺で取れたものだそうで新鮮でうまい。ひとつだけ残念だったのは、アルコール類が置いてなく(宗教上禁止されているようだ)、このうまい魚と一緒にビールが飲めなかったこと。ミネラル・ウォーターだけじゃちょっと味気ないよね。周りを見回すと、皆、水かファンタ・オレンジ(!?)を飲みながら魚を食べている。ちなみに、2回フレンチ・レストランに連れて行ってもらったときは、ビールは勿論ワインなどアルコール飲料も置いてあった。

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(テーブル一杯に並べられた魚料理、ミネラル・ウォーターのペットボトルが輝いている!)

 

 オラン市でのコンサート会場は、フランス人たちが建てた古い立派な劇場だった。同じ広場の斜め向かいには市役所の建物があり、フランスにある古い町の中央広場みたいな感じのところだった。残念ながら建物の中は老朽化が目立つ。でも、なんとなく19世紀ごろの劇場で演奏している感じで、しかも音響は悪くなく、結構気持ちよく演奏できた。会場を満員にした観客のマナーはお世辞にも良かったとは言えなかったが、我々の演奏をそれなりに楽しんでくれたようだった。ドミンゴ氏も演奏会後、この演奏会を主宰し無事成功に終わったので、実際に演奏した我々よりもほっとした様子で、大変満足気な笑顔を見せてくれた。宿泊先のホテルのレストランで軽い打ち上げを兼ねた遅い夕食を3人で取ったが、ここでもアルコールが置いてなく、「ビールで乾杯」ができなかった。

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(オランの劇場、リハーサル中)

 翌朝は7時30分のフライトで首都アルジェに向かうスケジュールだった。朝6時にホテルのロビー待ち合わせ、出発。こんな早くじゃホテルで朝食は取れないなーと思いながら、6時10分前にロビーに下りていくと、フロントの人が「ボン・ジュール」と言いながら慌てて駆け寄ってきて、おもむろに僕の荷物を持ちまだ暗い外に出て行った。「何だよ、もうみんな外で待っているのかな?」と思いつつ外に出てみると、運転手が眠そうな顔をして僕の荷物を車に詰め込んだ。「アレ、他の人は?」と尋ねると、首をすくめて「知らないよ」というジェスチャーをした。するとフロント・マンが僕を手招きして「カフェー、ムッシュー」と言った。「え?」という間もなく中二階にある食堂までほとんど押し上げられた。なんと朝食の用意がしてあった。戸惑いながらも「メルシー」と言い、急いで朝食を取り始めた。しばらくすると、ビセンテとドミンゴ氏も上がってきて、「こんな時間に朝食にありつけるなんてラッキーだな」と言いつつ大急ぎで朝食を取った。このフロント・マンは笑顔とともに我々を丁重に見送ってくれた。眠くて仕方なかったが、知らない土地でのこういう親切ってとてもうれしい。道路はさすがに空いていて空港まではあっという間に着いた。しかし空港で飛行機に乗り込むまで一苦労あった。この続きは次回のスペイン便りで・・・。

 今回はここまでです。「スペイン、僕のお気に入りの場所」のエッセイも連載中です。あわせてお読みください。それでは、ごきげんよう。

2008年2月20日、マドリード、高木真介
Masayuki Takagi 

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スペイン、僕のお気に入りの場所・その3


ペドラーサとアサドール・ソポルタル

 ローマ時代の水道橋で有名なセゴビアから35Kmほど北東に向かい山間に入っていったところに、ペドラーサ(PEDRAZA)という人口480人ほどの小さな村がある。村はちょっとした小高い丘の上にあり、周りを城壁で囲まれている。坂を上り、城壁の一角にあるとても立派な城門をくぐり村に入っていく。石畳、古い石造りの家並み。まるでタイム・スリップして中世の村に迷い込んだような錯覚に陥る。ゆっくり歩いても20分ぐらいで一回りできてしまうほど小さな村だけど、結構多くの人がここを訪れる。マドリードから車で1時間半の距離、しかも周りは田園風景、週末にブラッと出かけるにはもってこいのロケーションである。そしてここの空気は、汚染された都会のそれとはちがい本当にフレッシュだ。勿論それだけでも来る価値は充分あるのだけど、ただ単に中世の町並みを、そしておいしい空気を楽しむためだけが、ここに来る目的ではない。さて、それではどんな目的があるのでしょうか?

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 観光地であるセゴビアの子豚の丸焼きはあまりにも有名な料理だが、セゴビアを含むカスティーリャ・レオン(旧カスティーリャ)地方には、アサドール(直訳すれば「焼き場」)と呼ばれる、かまどで子豚や子羊などの肉を焼いて食べさせるレストランがたくさんある。このペドラーサにも、小さい村にもかかわらずアサドールがいくつもある。実は、ペドラーサの子羊のかまど焼きは、名物中の名物だ。そう、「ここに来る目的は?」という質問に対する正解は、「羊を食うため」です。
僕のお気に入りのアサドールは、ソポルタル(SOPORTAL)という店で、村の中心、マヨール広場に面している。村中どこでもそうだけど、本当に古い建物だ。

アサドール・ソポルタル

 狭い階段を上り2階のメイン食堂に入る。ボーイが挨拶しながら大きなかまどのほうを指差す。「ご覧のように羊がちょうど食べごろに焼きあがるところです」。大きな窓際の席に着く。さて、メインの子羊を楽しむ前に、僕は必ずカスティーリャ風スープ(Sopa Castellana)というスープをオーダーする。別名「にんにくスープ」とも呼ばれていて、前日に残った硬くなったパンと、にんにく、唐辛子、豚肉の脂身などを一緒に煮込んだスープで、元来は貧しい人たちの食べ物だったそうだが、確かに材料は今でも安いものばかりだ。素朴なスープだが、実にうまい。特に寒いときは、熱々のこのスープを飲むと体の芯から温まってきて、「よーし、羊を思いっきり食うぞ」と、気合が入る。そして、いよいよメインの子羊。ほどほどに塩味がしみていて、火はうまく通っている。回りの皮はパリッとしていて、中の肉はとろけるように柔らかい。ときどきワインと野菜サラダで舌を清めながら、ひたすら食い進んでいく。骨付きのところは指でつかんでしゃぶる。締めくくりは、器の底に残っている汁をパンにしみこませて食べる。これがまたうまい。思わずパンをおかわりしてしまう。残っているワインを飲み干し、「ご馳走様!」。デザートでちょっと甘いものを食べ、濃い目のコーヒーを飲む。すっかり幸せな気分になる。

 

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  考えてみたら、スープにしても羊にしても、とてもシンプルな料理だ。シンプルだからこそ、奥深いものがあるのだろう。まず、かまど。まきのくべ方、つまりかまど内の温度の調節は大変重要かつ難しいものだと思う。そして、肉の焼き方。焼いている最中時折水を注すが、そのタイミングなども熟練を要すことだろう。味付けは塩のみだが、この「塩加減」も大きく物を言うと思う。何よりも、クオリティーの高い素材を選ぶ選択眼・・・。
すっかり満腹した後は、もう一度村の中をぶらつく。時間の流れがとても緩やかに感じられる。中世の家並みもいいけど、周りの景色もとてもいい。今は美術館に改装されたお城の近くで草を食む馬の姿がほほえましい。やはりこういうのどかで美しいところだから、食べるものも余計美味しく感じられるのだろう。個人的には、人の多い週末ではなく、閑散としたウィークデイに来るのが好きだ。ペドラーサの美しい村も、美味しい羊も独り占めしているような感じがするから。

髙木真介/ Masayuki Takagi


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