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REPORT:「対話と演奏」 Vol.4  林 祥太郎×田邊雅啓 

林祥太郎 ~注目の新進製作家作品を弾く~

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楽器、演奏、音そして音楽について、それぞれのエキスパートを招き、ギターという楽器を通してその場に居合わせたすべての人にそれらを実際に感じ、考え、活かしてもらう、そんなコンセプトから始まったシリーズ「対話と演奏」

4回目となる今回は「新進」をキーワードに、演奏者に林祥太郎氏を迎え現在注目の若手製作家たちの作品を弾き比べて頂こうという企画。 恒例の対話篇では製作家の田邊雅啓氏によるこれら製作家たちの素顔について語って頂いた。演奏者の林氏をはじめ、すべてが次世代を 担う若手としての同時代性を共有しながら、文字通りフレッシュな内容のイベントが展開された。

バルセロナの地での留学を終え帰国した林氏はその感触をそのままパッケージしたような見事なアルバム「カタルーニャ」を発表し、デビュー作にしてレコ芸優秀盤に選定されるなど、すでに高い評価を得ている注目の新鋭ギタリストだ。(下記画像よりCDのご確認頂けます。)

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彼が今回演奏した楽器は以下の5本

トーマス・ホルト・アンダーセン
カルロス・フアン・ブスキエール
パブロ・サンチェス・オテロ
ホアン・アントニオ・マリン
⑤栗山大輔

第一部、1曲目のマラッツ作曲「スペイン風セレナーデ」では①を使用。 冒頭のあの特徴的なリズムが歯切れよくしっかりと、しかし十分に音楽的に 響く、そして続くメロディーは実に歌われ、やはり音楽的な感興も申し分ない。 メイプル材を使用したアンダーセンのギターは倍音を抑えたすっきりとした 響きながらメイプル特有の渋い味わいがほどよく出て、それがこの曲の興趣 と不思議にマッチして印象的な演奏になった。

2曲目3曲目に演奏されたカタルーニャ民謡の「盗賊の歌」「聖母の御子」では パブロ・サンチェス・オテロのトーレスモデルを使用。打って変って深く 太く粘りのある響きで奏でられるあのお馴染みの有名な旋律。その民謡性を 十分にロマンティックに表現しながら、あくまで歌はさりげなく、大きな振幅を もって豊かに響き、自然に流れる。プロ・アマ問わずこの2曲をこのように弾く ことは実は至難の業のはず。

4曲目はE.S.デ・ラ・マーサの<プラテーロと私>より「狂人」をセレクト。 隠れた名曲だらけのこの演奏家兼作曲家の作品の中でも特に魅力的な小品を あの印象的なハーモニーを美しくふさわしい表情で弾かれるのを聴くのは 何とも素晴らしい。名匠アントニオ・マリンの実孫にあたるホアン・マリン製作の ギターが持つ若々しく明朗な響きが、この曲の印象派的作風によく合っていた。

5曲目はアルベニス作曲の「マジョルカ」。舟歌のリズムに乗せた出だしでは 深い憂愁をじっくりと遅めのテンポで弾く、その抑制された表情が見事。 これが長調に変わる中間部との対比を明確にし、聴く人に不思議な覚醒感を もたらしている。この曲の演奏に林氏がセレクトしたブスキエールのギターは この陰と陽の音色の対比にしっかりと反応し、音も歯切れがよく伝統的な 要素を多く持ちながらどこかモダンな感覚が通底している。

6曲目はE.S.デ・ラ・マーサの「暁の鐘」。まさしくタイトル通りの興趣を 全編に漂わせたトレモロの名曲を、やはり大きなうねりとさりげなくも多彩な 表情の変化で弛緩することなく弾き切ってしまう、なんともうっとりさせられる 演奏。この曲では今回のリスト中ただ一人の日本人製作家栗山大輔のギターを セレクト。絶妙な中庸を保ちながら、どの音も明朗かつ深い、そして十分に ロマンティックな響きをしており、名前を聞かなければ誰もがスペイン人の 製作家が作った楽器だと思うのではないか。

ひと通りリストの製作家たちのギターを弾き終え、その楽器ごとの製作家の 個性の違いに、来場された方たちは半ば驚きをもってその演奏に聴き入って いたようだった。

第2部には田邊雅啓氏を迎えて、ほとんどが本邦初紹介となる 製作家たちの、その造作の秘密と本人達の素顔について語っていただいた。

トーマス・ホルトのギターにおけるそのメイプル材の音響的特徴。ブスキエールマリンの誠実な人柄について。パブロ・オテロのギターでのウルフトーンの 位置の設定と表面板の厚さや力木の配置との関係や、彼のオリジナル保証書の表記から うかがえる製作家としての深い矜持と自身の楽器を使ってくれる大切なユーザーへの 思い。そしてこれらの作家と同世代の栗山氏の日本人離れした感性と技術についてなど、 同じ製作家としての共感と鋭い批評性がおりこまれた充実したレクチャーになった。

 

第2部の演奏、林氏がその演奏性を絶賛したアンダーセンの楽器をやはり1曲目に セレクト。トローバ作曲の小品2曲「松のロマンス」「トリーハ」を演奏。第一部では 早めのテンポのダイナミックな曲で使用したこの楽器が、これらチャーミングな 曲で優しくたっぷりと響く。林氏の演奏は衒いのないものだが不思議にトローバという 作家の現代性が如実に感じられるものとなっており、聴いていて実にすがすがしい。

3曲目はアルベニスの「朱色の塔」。使用楽器は栗山大輔。このダイナミックな楽曲 にあって、ここでも対比を明確にしながらも全体の統一感をしっかりと維持した、 そのバランス感覚の見事さが素晴らしい。それは楽器についても言え、どのハーモニー どの単音においても偏りのない音響バランスは、この楽曲の演奏の完成度を高める ために、演奏者にとって必要なものだったのではないか。

4曲目は「アルハンブラ宮殿の思い出」。使用楽器はカルロス・ホアン・ブスキエール。 林氏の演奏は基本的に伝統的でオーソドックスなものといえるのに、どの曲でも 新しく、これまで聴いてきた演奏とは違うものを感じさせられる。それが衒学的なものでは なく自然な音楽のなかに表現としてあるのが、聴き手としては何とも心地よい。 この名曲も、技術的音楽的に何の不足もなく、深く聴き入り、感動を起こさせる 演奏。

5曲目はそのタレガによる遺作「哀歌と祈り」をパブロ・サンチェス・オテロの ギターで演奏。この深い哀愁をたたえた小品を、オテロの楽器がもつ乾いた重厚な 響きに乗せてさりげなく奏でる。

最後はフェルナンド・ソルの「グラン・ソロ」をホアン・アントニオ・マリンで演奏。 端正な造形の中に音楽的な感興をダイナミックと言えるまでに表現し、曲が求める うねりや流れにしっかりと乗りながら、全体に見事に統一させる林氏のセンスと 技量が、この大曲においても十全にあらわれていた。その音の迫力を称賛していた マリンの楽器で、実にスリリングにそして心地よく仕上げ、最後まで弛緩すること のない見事な演奏。

今回のプログラムの作成と使用楽器の選択については林氏に事前に楽器を試奏 していただいたうえで全てお願いしたものだが、楽曲の特徴と楽器の特性との 相性を見極める氏の芸術家としての審美の強さにも敬服させられたコンサート となった。

満場の熱い拍手に応えて、「用意していなかった」という氏だったが、特別に アンコールとして「聖母の御子」を演奏。第一部ではオテロを使用して演奏し たが、ここではブスキエールを使用し、すっきりと抜けるように明るく、曲の 清廉な印象を深く聴き手の心に残してコンサートを終えた。

楽器を造る側と演奏する側、その両方での世代交代、若き才能の萌芽を 同時に体感していただくことを主眼としたコンサートは、それぞれ熱い 思いを持つ最良のアーティストによって、この上なく充実した内容に なったのではないだろうか。ご来場いただいた方々に、そのフレッシュな 感触を味わっていただけたとしたら、主催者としてこの上ない喜びである。

2016年7月17日


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