HOMEエッセイ田邊雅啓の工房探訪記 > 9.ベルンド・マルティン工房編
9.ベルンド・マルティン工房編

 グラナダでも有名なアルバイシン地区へとタクシーを走らせた。元来がアラブ人の城塞都市として発展したこの地区は、小高い丘にあり、道が迷路のように入り組んでいる。すれ違う車や白い壁に擦られそうになりながら、急な坂道をぐいぐい登っていく。丘を登りきり着いた展望台から、アルハンブラ宮殿の眺望が目の前に美しく広がった。「こんなところに工房があったら最高だな。」というこの場所に、目指すベルンド・マルティンの工房がある。展望台から少し下って、石畳をてくてく歩いて行くと小さな広場があり、目の前の白い壁に素敵な淡いブルーで「ベルンド・マルティン」と書かれた白い小さな陶板がかけてあった。

9-1-300x225

 ドアを開けると、奥でマルティンが力木か何かを切断していた。作業がしばらく続いたが、我々に気付くとニコニコして出てきた。早速握手と抱擁をしようとすると、木屑を被っているからとマルティンは断ったが、構わずがっちり抱擁をした。それにしても彼は背が高い。私も180センチあるが、彼を見上げるようである。優に190センチはあるであろう。写真で見る限り気難しそうな印象だったが、明朗、快活で彼もまた優しい子供のような眼をしている。工房はとても整理されており、彼が大きいせいか机も棚もすべて高い位置にある。中央にベッドのように作業台が置かれていて、棚には写真が飾られており、ギタリストやアントニオ・マリン、大きな丸太と一緒にマルティンが笑って写っていた。

9-2-300x225

 一本完成品があり見せてもらった。表はドイツ松、裏はローズウッドである。サントスから研究して、ハウザーのイメージを加えて設計をして製作したものだそうだ。そのため重い低音を持ちながら、高音も硬くしまって音が抜けている。表、裏共に丸太から製材して、良質なところを厳選して使用しており、注目すべきはローズウッドのヘッドも駒(ブリッジ)も裏板も横板も同じ一本の丸太から製作されているとのことだ。製作のこだわりは各製作家であるだろうが、材料を丸太から厳選し、製材している製作家はマルティンぐらいかもしれない。全く頭が下がる思いである。

9-3-300x225

 次のアウラの納品と注文を確認した後、もう夕方になっていたので、一緒にバルで一杯やろうということになった。夜も更けて満天の星空の下で、ギターの話をしながら、ライトアップされたアルハンブラ宮殿を眺める。脇でジプシーの二人組がフラメンコギターを、我々を含めたバルの客に披露している。軽快なギターの音色をBGMに聞きながら、まるで夢のような気持ちになった。しばらくマルティンと本山氏の3人と、至福の時間を過ごしたあと、マルティンから僕のギター製作に対して、激励の言葉を貰い、名残惜しくも別れを告げた。

9-4-255x300

 今日の予定を終え、本山氏とゆっくりアルバイシンの丘を、アルハンブラ宮殿を眺めながら下りて行った。宮殿の方から吹いてくる風が夜になって少し肌に冷たく、とてもとても心地よかった。


yomimono yomimono