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5.ホセ・ラミレスIII世、IV世

A:ラミレスIV世が亡くなったとの連絡が入りました。この数年、ギター界の歴史を担ってきた人物が次々と亡くなり、時代の変化を感じさせられます。

B:先代のラミレスIII世は60年代後半から70年代前半のギターブームを象徴するような楽器でした。先日、阿部保夫さんが亡くなられましたが、阿部さんが初代講師をつとめられたNHKテレビのギター教室は、日本でクラシックギターというものが広く認識されるきっかけになりました。このページをご覧の方の中にも当時をなつかしく思い出される方が多いのではないかと思います。現代ギターが創刊されたころですよね。あのころは皆、憑かれたようにギターに夢中になった。ラミレスIII世はそういう時代の憧れだったように思います。

C:輸入ギターの代名詞だったなあ。銀座のヤマハに1本だけあったラミレスのハカランダが神々しく見えた(笑)。

D:当時はまだ、国産のギターは輸入品とかなり差がありましたね。今は極端なことを言えば、どのギターもステージで充分使えるレベルにある。当時は、丁寧には作ってあったけど、楽器として鳴らないものがたくさんありました。今考えると材料の無駄な消費にしかならなかったようなものもあった。

C:私は初めてラミレスを手にしたときの驚きをまだはっきりと覚えています。やわらかいビロードのような高音は、ほかのどのギターにもないものでした。

B:それが近くで鳴るだけでなくて、ステージでも独特の色がついた、色彩感のある朗々とした鳴り方をします。単に大きな音で鳴るギターではなかった。革命的なギターでしたね。

C:当時は、あらゆる面で型破りだったと思います。まず、表面板に杉材を初めて使用したこと。それは材料の選択肢を増やしただけでなく、従来のスプルースとは違った音色を作り出すことに成功しました。第2に長い弦長。664ミリは、ギター史上最長です。これがあの音色に影響していることは間違いありません。それから、胴の厚みを大きくとったこと、側板の裏に軽いシープレス材を貼り合わせたこと、塗装にユリア樹脂を用いたことなど、それまでのラミレス一門の伝統的な作風から一挙にコンサートスタイルのギターへと変身させました。

D:経営的にもIII世は革命児でしたね。多数の優秀な職人を雇って、大量に生産した。自分はアイディアを出し、検査だけやっていた。それでいて、ムラの少ない高い品質を保つことができたのです。時代の勢いとでも言うんでしょうか。

B:当時の職人の中にはマリアーノ・テサーノスI世、パウリーノ・ベルナベ、マヌエル・コントレラスI世、ペドロ・バルブエナ、マヌエル・カセレス等がいたのです。ラミレスの工房は、工房というより工場で、近代的な製造ラインから作られていたようなイメージがありますが、実際にはむしろ古い製作技法で作られ、職人の技量に依存していたようです。

D:品質の割には手頃な価格だったので、僕らにも何とか買えた。それに、どこで弾いてもちゃんと鳴ってくれる安心感があったものね。セゴヴィアのご愛用だったし。

B:セゴヴィアはラミレスをとても好んだようです。フレタも使っていましたが、何かのインタビューでやっぱりラミレスに手が伸びてしまうと言っています。確かにセゴヴィアの美音を最も生かせるのがラミレスだったのかもしれません。あれだけギターの選択にうるさく、頑固に気に入った楽器しか使おうとしなかったセゴヴィアが、最後までラミレスを弾いていたというのは興味深いことですね。晩年はIV世の作品を愛用していたようです。

D:ラミレスって比較的ムラが少ないけど、それでも本当に良くできたラミレスは素晴らしいですよ。高音が豊かで艶があるし、低音に伸びがあり、和音の分離もいい。もっともそういうのはセゴヴィアの手にしか渡らなかったのかもしれないけど。

C:高級ギターの代名詞のようだったラミレスは、ある時期から批判されることになります。小さな手には弾きにくい、音の分離が悪い、低音に魅力がない、バランスが悪い、大味だ等々。それはセゴヴィアの演奏に対する批判と重なる面があると思います。時代の流れで、演奏にも楽器にも求められるものが変化してきたのですね。IV世はIII世より現代的になっていますが、その分、III世の良さが失われたと感じる人もいます。

B:私は決してラミレスが時代遅れの楽器だとは思いません。最近は過小評価されている感じがします。コンクールのような場でも、ラミレスで弾く人はよく鳴っているように思います。逆に最近人気の製作家では、弾き手にもよるのでしょうが、評価ほどには魅力的に思えないものがあります。

A:その辺は、実は本質的な問題が含まれているのかもしれませんね。


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