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進行波もどき

弾弦位置と音色に関する重要な関係と思われる事がもう1つあります。これは勉強不足のため確実な資料もなく、まったく個人的なイメージの話と思って下さい。 弦長が50メートル位の棹の長いギターがあるとします。充分しなやかな弦を鋭いタッチで弾いたとしたら、弦はどんな運動をするか想像してみて下さい。たぶん弾いた直後は、ナットあたりには何の変化もなく、まっすぐな弦の上をコブのようになった波がナットに向かって走っていく、波紋のような進行波になると思います。現実のギターでも進行波と似たような運動が考えられますが、弾弦の時の指が弦から離れる前に弦はナットまで反応しています。それは指があたった所を頂点とする三角形になります。頂点は急速に元に戻ろうとして動き、その結果、ナット方向に移動していきます。波はナットで反射され、サドルとの間を高速で往復します。ナット側で出来る頂点の位置は、サドル側で作った頂点の位置と同じになりますが、これも目で確認できます。普通にギターをかまえてから,ギターを向こう側へおじぎをするように寝かせ、6弦だけが見えるようにします。初めは12F(フレット)あたりを弾弦して3Fあたりの弦の稜線を見ます。弾弦する位置を少しずつ駒の方へ移動させると今までスリムだった稜線がだんだん太って来るのがわかります。その太った頂点は弾弦する位置と同じ動きをするはずです。この立ち上がりの音色に深く関わっていると思われる進行波もどきが、どのような高さをもっているのかわかりませんが、かなり高い倍音に関わっている気がしますし、高さも一定ではないようです。また弾弦した時の頂点の鋭さの違いによっても変化します。
弾弦と同時に定常波も生まれていて、やがて進行波もどきは反射により弱くなり、定常波の中に消えていきます。6弦の低音で立ち上がりの時ビリつくのは,ウルフトーンと太った進行波もどきがフレットにぶつかるのが原因で、きわどくビリつく時は12F寄りを弾弦すると消えることがあります。また、あたりの悪いナットやサドルで雑音が出るのも、強烈な進行波が反射する時です。
今度は6弦をめいっぱいゆるめ、音になるかならないかくらいにして、表板を自分の方に向け、色々な位置を弾弦してみて下さい。進行波もどきや2倍音、3倍音を作ろうとしている弦の動きがかすかに見えます。そこには目に見えない音の複雑さそのものが見える気がします。たとえば、弾弦しながら6弦のナットの近くを見ると、弦の収束していくところが見えます。それはナットではなく、少し離れたところを支点としているように見えるはずです。これは弦自体の硬さが原因で、弦が棒のようになり、波の運動に参加していないことによります。駒側も同じで、理論的な弦長より短くなるところを支点としているように見えますが、弦の運動により駒も上下に揺れているため、ナット側より複雑な運動になります。弦の棒状化は倍音でも同じで、節の部分は波になるのを妨げるかのような動きをします。これは音程が上がり気味になるということであり、節の多い高次倍音になればなるほど音程が上がります。
棒状になるといっても、波との境目は曖昧です。そのつもりでもう一度ナットの近くを見て下さい。仮の支点と思われるところは、かなり動いているように見えます。とくに、かなりのスピードでナットとサドルの間を行ったり来たりしている進行波もどきの影響は大きく、進行波もどきが消える前と後でも違ってくるはずです。仮の支点が動くということは、弦長が変化しているわけで、それは音程に幅があることを意味しています。当然、倍音にも幅が出てきます。
進行波もどきの音や、倍音が上がり気味になることや、音に幅があることが、聴覚的にどのような影響があるのかはっきりわかりませんが、これらが複雑に影響し合っていることだけは確かだと思われます。


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