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1.プロローグ

  パリからマドリッドまでのフライトはかなり揺れた。少し緊張気味の私 は、出発の前日と、成田から十数時間かかるパリまでのフライトの間、ほとんど寝ておらず、断続的に押し寄せる縦揺れ横揺れに、かなり気分が悪くなった。幸 い隣にいる本山氏との会話のおかげでいくらか気持ちが楽になり、飛行機も自分も何とか無事に到着した。

  今回本山氏のスペイン出張に同行させてもらい、ロマニリョスの製作講習会以来の、スペイン再訪が実現した。前回は、ロマニリョスのスペイン伝統工法によ る製作を目の当たりにし、彼の指導のもとで製作したギターをもとに、写してきた型で冶具作りをはじめ、今までの工法を一からすべてやり直した。そして、同 じロマニリョス講習会で出会った尾野薫氏から、ロマニリョスという楽器の数値的に割り切れない部分について、適切なアドバイスを受けながら、試行錯誤を繰 り返した。尾野氏はすでにスペインの伝統工法による製作を長年に渡り実践し、最高峰のギターを生み出している。そして、あっという間に三年が過ぎた。最 近、自分が製作する作品に少しづつ手応えを感じ始め、今後の自分のスタイルというものを確立するために、もう一度原点であるスペインに行かなければと思っ ていた。その矢先に本山氏から同行の話を頂いたので、誘いを受けたときは天にも昇る気持ちだった。こうして、スペインギターの伝統工法を受け継ぐ一人とし て、スペインギターの時代を築いたマエストロ達と触れ合える絶好の機会を得ることができたのである。

  飛行機を降り、スペインの地を踏みしめる。荷物を受け取り、タクシーでいざマドリッドの中心街へ。かつて見た街並みが再び目に入る。ホテルへ着く寸前に 本山氏が何気なく「ああ、この奥がサントス・エルナンデスの工房。」それを聞いて、私の胸は高鳴った。日常には無いこの緊張感がたまらない。
いよいよだ。いよいよはじまる。


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