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5.マヌエル・カセレス工房編

 マドリッドのへそと呼ばれるソル広場から程近い裏通りに彼の工房(兼お店)がある。滞在しているホテルからは彼の工房が一番近いのもあり、本山氏とともになにかとお邪魔させてもらった。今日も早朝から訪ねたら、鉄格子は閉めていたが中で悠々と仕事をしている。我々に気付くとにこやかに歩み寄りガシャガシャと開けてくれた。

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 今日のマドリッドは小雨が降っている。昨日までのアンダルシアの夏のような陽気が嘘のように寒く、長袖の上にも上掛けを羽織った。いつものように挨拶と抱擁を交わし談笑する。お店は開店休業状態で、埃の被り方からしても商売っ気は全くなく、製作に没頭しているようである。北向きの暗い部屋を見上げると、高い天井には表板や裏板が沢山仕込まれて、ギターにされるのを順番に待っている。そして今日は何を作業しているのかと思えば(こんなに表板が仕込まれているのにさらに)昨夜接着したであろう表板の接ぎの紐掛けを外していた。現在接ぎに使う締め具は、ハタ金など便利なものもあるが、「やはりこれが一番」とばかりにくるくると紐を手に絡げてまとめている。とにかく忠実に伝統工法に乗っ取って製作しているのである。

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 便利な表板の型を見せてもらった。これにより木取りし易いというもので、「ロマニリョスは教えてくれなかっただろう。」とニコニコ言っていたが、表板の選 別に関しては、ロマニリョスとは好みが違うようであった。指板を張った状態で寝かしてある彼の次の新作を見る。先の型で決めたであろう素晴らしい材料をを 使用している。ポンポンと親指の腹でタップすると柔らかく甘い音が敏感に出てきた。仕上がりがとても楽しみである。

 午後に再び会うとあいかわらずニコニコしていて、寡黙に製作していた。そして仕事のあとバルでワインをご馳走してくれたり、マドリッドを発つ前に寄ったときは、自分の昔の新聞記事をコピーしたのをカセレスオリジナル封筒に入れてプレゼントしてくれ、サインもねだったら、激励の言葉を添えて渡してくれた。いろいろ優しく接してくれて感謝の思いでいっぱいになりながら、再会を約束して工房を後にした。


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