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8.アントニオ・マリン工房編

 ドアが少しだけ開かれていて、その隙間からホセ・マリンとゴンサレス・ロペス(マリンの弟子)が真剣な表情で裏板接着後の紐を外していた。一瞬声を掛ける のをためらったが、接着しているわけでもないので挨拶すると、ニコニコと快く握手と抱擁で迎えてくれた。裏板を接着して太鼓にすると、ある程度その楽器の 出来上がりも見えてくるので、あの真剣な眼差しは痛いほどに良くわかる。マリンは出かけているが少ししたら戻るとのことで、本山氏といろいろな話が飛び 交った。

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 壁にはやはり道具や治具類が並び、左の奥には長年使い込んだ接着用の膠鍋がみえる。湿度計は45パーセントを指していて、製作にはもってこいの湿度であ る。正面にマリンの作業台、右側にホセ・マリン、そしてその後ろには、ギターが10本ほど吊るしてあった。裏板接着まで加工されたもの、指板まで接着され 寝かしてあるもの、塗装をして乾かしてあるもの、どうやら3つのサイクルで製作されたようである。表板はすべて松が使われ、裏横はきれいな木目の出ている ローズウッドとハカランダであった。塗装してあるものは極薄のセラック塗装にもかかわらず、マリンらしくとても綺麗に仕上げてある。近年、出来合いの飾り や合成塗料などの使用が増える中、マリンをはじめとするマエストロはすべて手作りで、ギターを型の上でこつこつ組み立てていき、セラックをテルテル坊主の タンポに浸して、しゅるしゅる塗りあげていく。マリンの工房にいると、伝承された技術を守りながらも、さらなる発展のために創意工夫を凝らし、地道に時間 をかけて製作していくことこそがギター製作の秘訣なのだと改めて感じさせてくれる。

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 しばらくしてマリンが戻ってきた。戻るなり本山氏と熱い抱擁を交わし、再会を喜び合う。僕とも痛い位抱擁してくれた。続けて(毎回そうであるらしいが)、 ブーシェとの出会いを実現してくれた日本人をはじめ、ゆかりのある人のことを尋ねる。そしてギターを手に取り彼のこだわりも熱く語ってくれた。最高の材料 を選りすぐり、使用するギタリストのことを考え、感謝の気持ちをこめてゆったりと製作するそうである。

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 とにかくマリンは温かくて優しくて、胸がいっぱいになってしまった。これだけの人格を持つ人はそうはいないと思う。それは眩しい位に輝く彼の瞳にも 表れている。どうかいつまでも元気でギターを製作して欲しい。楽器同様体躯も貫禄のでてきたホセ・マリン、そしてゴンサレスも楽しみである。マリンのギ ターの技術と思いは、ここグラナダで永遠に継承されていくに違いない。

 みんなのサインを松材にもらい、頭のてっぺんからつま先まで幸せになってマリン工房を後にした。

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