HOMEエッセイguitarra-espanola > 清水優一 第2話
清水優一 第2話

清水優一②(Guitarra Española ~受け継がれていく伝統~)

2013年の年末にそれまでお世話になった河野ギター製作所を退社した。
2014年6月これから独立してクラシックギター製作をする上で、前々から行かなくてはと思っていたクラシックギターの本場スペインに行く計画を立てた。
スペイン伝統工法については製作家のネジメ氏や尾野氏から技法や音作り、音の聞き方等を度々教えていただいて、スペインで作られた名器等を見ているうち に、やはり本場に行ってみたいという気持ちが日に日に強くなった。本場のフラメンコも聞いてみたいという思いもあった。(行く前は無知だったのでスペイン 全土でフラメンコが盛んなのだと思っていたのですが、やはりアンダルシアなんですね。)

そして、アウラの本山氏にマヌエル・カセレスの住所 を教えてもらい、ロマニリョスが居るシグエンサにはシグエンサ国際ギターフェスティバルの時に行けば会えるだろうという事で7月に、グラナダでは以前から ネジメ氏にアントニオ・マリンの素晴らしい人柄や思い出話など度々聞かせてもらい、直接お会いしてみたいと思っていたのでアントニオ・マリンの工房に行く ということだけ決めて、それ以外の工房には現地で探しながら行ってみることにし、大きな期待と少々の不安を抱きながらまず最初はカタルーニャ地方のバルセ ロナに向かった。

出発前に多少のスペイン語は勉強しては行ったが、バルセロナに着いて現地の人の話すスピードには全然付いていけず、ましてやカタルーニャ語は何を言ってるのかさえ聞き取れなかった。その後何とか宿までたどり着く事はできた。
バルセロナには友人がいたので、友人がマネージャーを務めているバンドのコンサートやラジオ番組の収録等を見学させてもらったりしながらギター工房の手がかりを探すところから始めた。
その間に行った音楽博物館(museu de la musica)では色々な昔の楽器や19世紀ギター、フレタの7弦等珍しいギターが多数展示されていて、中でも一度見てみたいと思っていたトーレスの横裏板が紙で出来ているギターもあり大変興味深かった。

バルセロナでは、有名なサグラダファミリアにも行った。近くで見るととても巨大で、外側には精密な彫刻が施してあり今まで映像や本でしか見たことがなかったので、個人的には粘土細工みたいなイメージだったのだが、実際に見てみるとその迫力に圧倒された。
その後バルメス地区にあるカサルシアーギターレスというお店を見つけそこでフレタの住所と連絡先を教えてもらい向かった。到着してみると外から工房の中が 見えず入りにくい雰囲気だったので友人に頼んでフレタに連絡をしてもらった。現在は繁忙期だと言うので、スペインを出国するのにバルセロナに戻って来た時 に再度来訪することを約束した。

バルセロナから列車でシグエンサに向かった。
シグエンサはとてものどかな田舎の町という感じで、郊外には松林が広がっていた。
シグエンサに着いた翌日に丁度ギター博物館のあるカサ・デル・ドンセルでロマニリョスのメイキングアスパニッシュギターの出版記念写真展を行うというチラシが宿に貼ってあったのでその時行けば本人も来ているのではないかと思い行ってみることにした。
入口のドアを開けると10人程のシグエンサの人々に囲まれてロマニリョスの姿が見えた。
その後会場に移りロマニリョスがスピーチをした後思い切って声をかけ工房を見学させてもらいたいという事を伝えると明日なら都合が良いという事で伺わせて もらえることになり、翌日約束した時間に緊張しながらシグエンサから車で10分程行った所にあるギホサにある氏の工房に向かった。(ギホサはいかにも製作 家が住んでいそうな山の上の小さな村で、7月だというのに長袖の上着が必要なくらい肌寒い所だった。)工房に着くとロマニリョスとマリアン夫人が玄関の所 で待っていて迎え入れてくれた。
工房ではまず私が持参していたギターを見ていただき表板の固さやサスティーン等について色々アドバイスをもらった後にロマニリョスが最後に一人で作ったという ラ・メディオ・シグロという名前のついたギターを見せてもらった。
そのギターは飾りにとても手が込んでいてとても美しく、驚いた事に無塗装のままで仕上げられていた。
そのギターの表板をたわませてこれぐらいの固さが良いのだという事を示してくれ、その後ギター作りにおいて表板の材質がいかに重要かという事について話を聞かせていただき工房の中を見学させてもらった。
工房は作り途中の表板等が吊るしてありここでロマニリョスギターが作られていたのかと思うと感慨深く、とても楽しい時間を過ごすことが出来た。
工房の中で印象的だったのは古い足踏み式の回転砥石をとても大切に使っていて氏の道具への愛情を垣間見た気がした。
シグエンサ国際ギターフェスティバルが始まるまでにまだ数日あったので、マドリッドまで行きマヌエル・カセレスの工房に向かった。
マヌエル・カセレスの工房はガラス貼りでギター屋のような作りで外から見ていると作業中のカセレスが手を止め私を迎え入れてくれた。
ネックの長靴部分を加工している所だったので、その作業を見せてもらうことにした。
カセレスは歌いながら丁寧に仕事をしていて店の造りや立地も含めていかにも都会のマドリッドのギター製作家、粋な感じの人だと感じた。

シグエンサ国際ギターフェスティバルが始まった。
フェスティバルではロマニリョスの親戚のリカルドさんのギターが展示されていて趣味で一本作ったらしいのですがとても美しいギターでした。(このギターも無塗装のままで仕上げられていました。)
ロマニリョスのドキュメンタリー映像も上映されたのですがその中には講習会での尾野氏の姿も映っていた。
期間中にはカルロス・ボネル氏やカナダ出身の元フラメンコギタリストで今はスペインでギター製作をしているアルカディオ・マリン氏等に食事に誘っていただ いたり、朝にはカルロス・ボネル氏のマスタークラスを見学したりと楽しい時を過ごし、あっという間に2日が過ぎていました。
最終日の3日目にはマリアン夫人が提案して下さり私のギターも展示させてもらえる事になりカルロス・ボネル氏やパコ・ペーニャ氏クリスティーナ・サンドセ ンゲン氏、アリオッチャ・ターベネット氏等のギタリストに試奏してもらい色々な意見を聞くことが出来た。今後ギターを作るうえで大きな収穫だった。

3 日間のフェスティバルは主催者でもあるペペ・ロマニリョス氏がマネージメントを務めるイギリスのロックバンド、ジェイ・スコット&ファインドの素 晴らしい演奏で幕を閉じた。*ジェイ・スコット&ファインドのギタリストのターベネット氏はクラシックギタリストとしても活躍している。
その後近くのバルで行われた打ち上げにも参加して朝まで皆でギターを弾いたり歌ったり、とても楽しい思い出になった。
フェスティバルでは他にも様々な出会いがあった。
ロマニリョスの講習会の受講者でオランダのギター製作家グリート・バン・オプステル、フェスティバルではPAを務めていたロマニリョスの友人のギタリスト でブルースからクラシックまで弾きこなすハビエルさん、特にハビエルさんには家に遊びに行ってトルティージャエスパニョーラ(スペインのオムレツ) をご馳走になったり、ギターや音楽について話したりと、とても楽しい時間を過ごした。
今もハビエルさんが弾く美しいギターの音色が耳に残っている。

 

第1話←   →第3話


guitarra-espanola+guitarra-espanola+エッセイ+yomimono+