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10.ヘルマン・ハウザー

A:「三世代にわたるハウザーですが、今や三世もいい年齢になってしまいましたね。そろそろ四世の登場かもしれません。これまでの三世代の違いはどのあたりにあるでしょうか。」

B:「ごく大雑把に言えば、一世はスパニッシュであって、同時にコンサートスタイルのしっかりした音作りです。次の二世は一世の面影を残しながら、もう少し透明な、洗練されたクラシカルな響きと言えるでしょう。現代的なバランス重視で、やや硬めの透きとおった音です。理知的といったら良いかもしれません。三世は粒立ちのよい、更に現代的なスタイルになっていると思います。」

A:「一世はその後の製作家にとって、お手本のように考えられていますね。」

C:「そうです。現代的な意味でのコンサートスタイルの原点と考えられるでしょう。一世はウインナーモデルなど豊富な製作経験をもっていたわけですが、これにサントスのスパニッシュな香りを加味して、強靱でバランスのよいコンサートスタイルを完成させました。」

A:「そうするとアルカンヘルにも近いことになりますか?」

C:「時代が違うので同じレベルで比較はできませんが、通じる面があるかもしれませんね。アルカンヘルは基本的にスパニッシュの血をもっていますが、ハウザー一世は根っこではヨーロッパ的なクラシカルな響きをもっていると思います。その生かし方が上手だったのですね。」

B:「サントスとアルカンヘルの音色の違いは、間にハウザー一世があることも影響しているのです。一世がサントスをモデルとしたのはよく知られていますが、忘れてならないのはトーレスを深く研究していたことです。一世はその後のスペインの製作家にも大きく影響を与え、分岐点を作った楽器と言えます。」

A:「いろいろな製作家が一世のスタイルで製作していますね。」

D:「代表的な名器は、たとえばマヌエル・ベラスケスでしょう。もっとも、外見はともかく、内部の設計は時期によってかなり違いがありますから、すべてをハウザー一世モデルとは言えないかもしれません。でもいずれも一世の音作りを意識している点では一致しています。」

C:「あとは、ロマニリョス、オルディゲスをはじめ、我が国でもほとんどの製作家が一世を重要な研究対象としています。」

A:「二世の作品は、一世ほどの評価ではない気がしますが。」

C:「一世は神様ですから、それに比べると不利かもしれませんが、作品によっては一世を彷彿とさせる素晴らしいものがあります。グロンドーナの本によると、セゴヴィアは一世だけでなく一時期は二世を使用していました。」

D: 「一世なき後、これこそクラシカルな響きというのがハウザー二世だったように思います。二世の透明感は素晴らしいと思いますよ。」

B:「先ほどの話に出ましたが、二世と三世はセゴヴィアモデルとか、ブリームモデルとか、いろいろなモデルを作っていることもあって、響きに多様性がありますね。あえて総合的に言うなら、ドイツ的な生真面目さというか、緻密さが感じられると思います。」

C:「三世も、二世かと思わせるような作品がありますね。独自の粒立ちをもつものと、二世あるいは一世に近いタイプのものがあります。どちらがよいということではなくて、そのあたりを意識しながら選択するとわかりやすいのではないかと思います。」

D:「三世代で比較するとき、一見して差が感じられるのは塗装でしょう。」

B:「塗膜の感じは三者でかなり違います。これが音に違いを生んでいる可能性はあります。」

D:「二世、三世のクリアラッカーの塗膜は、透明な音色ととてもイメージが結びつきますね。」

A:「裏板、横板の木目が美しく、見るからに名器の風格が感じられます。」

B:「先代から受け継いだ良質の木材をかなり保有していて、それが大きな強みになっているのです。」


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