お久しぶりです。お元気でいらっしゃいますか? スペインでは夏のバカンス・シーズンも終わり、9月を迎え新年度が始まり、街にはまた活気が戻ってきました。私も気分を新たに、長く休んでいたスペイン便りをまた皆様にお届けしようと思い立ちました。そんなわけで、タイトルにも「新」の文字を入れました。以前から読んでいてくださった方も、今回はじめて読まれる方も、新たにスタートするスペイン便り、どうかよろしくお願いいたします。
ジョン・ウィリアムズ・ギター・リサイタル
最初の話題は、去る6月25日にクエンカの音楽堂で行われた、ジョン・ウィリアムズのソロ・リサイタルです。クエンカは、カスティーリャ・ラ・マンチャ自治州に属し、マドリードから東に向かって車で2時間ほどのところにあります。今年2005年は、ミゲール・デ・セルバンテスの書いた有名な「ドン・キホーテ」の出版400周年に当たり、舞台となったラ・マンチャ地方では、これを記念して1年中を通して大規模な文化活動を行っています。その活動の一環として、このコンサートも含まれていたのです。
コンサートは二部制になっていて、第一部はジョン・ウィリアムズのギターソロ、第二部はラリー・コリエルの率いるジャズギター・トリオでした。そう、ちょっと不思議な組み合わせですよね。演奏会場に着いて周りのお客さんを見回すと、なんとなくL.コリエル目当てっぽい人のほうが多かったです。そんなわけで会場の雰囲気もクラシック・ギターのコンサートのそれとは違っていました。また会場には曲目や出演者を紹介するプログラムも一切無しです。ですからジョンとラリーが共演するのか、別々に演奏するのかさえも始まるまでわからずにいました。その内会場の明かりがすっと暗くなり、J.ウィリアムズが一人でギターを片手ににこやかに登場しました。なんとなく戸惑い勝ちでぎこちない拍手を尻目に、いきなりアルベニスのアストゥリアスを弾き始めました。その瞬間会場の雰囲気がさっと変わりました。「あ、この人すごいんだ!」ということに、ラリー(もしくはジャズ)・ファンはじめ、今までジョンなんて知らなかった人たちはきっと気がついたのでしょう。そして、以前からジョンを知っているクラシックギター・ファンも含めて会場全体が一瞬のうちに彼のマジックに引き込まれていきました。アストゥリアスの最後の和音が鳴った瞬間に大喝采が起こりました。
この日のジョンのプログラムは、アルベニスの作品を数曲、日本の横尾幸弘の「さくら変奏曲」、バリオスや、ヴェネズエラ音楽の中南米音楽、その後アフリカに飛んで、最後は、トルコ音楽が基盤になっているドメニコーニの「コユンババ」。ジョンは聞いている我々を彼の愛奏曲を集めて、その音楽を通して世界一周の旅に招待してくれました。曲間には片言のスペイン語(時には英語も混ざりましたが)で演奏曲目の紹介や解説を一生懸命していました。ジョンのすばらしい演奏に、聞いている人はみなすっかり感動していました。
第二部のラリー・コリエルの率いるジャズギター・トリオの演奏もすばらしかったことを付け加えておきましょう。
翌日国営放送のニュースでこのコンサートの成功ぶりが報道されましたが、インタビューでジョン・ウィリアムズは少しはにかみながら、「実はいまだにドン・キホーテは読んだことがありません。そのうち読みたいと思います」と答えていました。あなたもこの機会に「ドン・キホーテ」を読んでみませんか?
コミーリャス国際音楽フェスティバル
(コミーリャスのシンボル、ガウディ設計のカプリーチョ)
7月19日から31日まで、スペイン北部カンタブリア地方にある美しい街コミーリャスで行われた国際音楽フェスティバルの話題です。2週間毎晩バラエティに富んだプログラムが組まれていました。このフェスティバルはコミーリャス市の観光局の主催なのですが、アルメニア出身のバイオリニストのアラ・マリキアン(ARA MALIKIAN)とチェリストのセルゲイ・メスロピアン(SERGUEI MESROPIAN)が音楽監督を務め、二人ともフェスティバル中いくつものコンサートに出演していました。私もこの二人とは付き合いがあり、参加いたしました。
今回のスペイン便りで皆様に特にお伝えしたいのは、このフェスティバルに遠路はるばる日本から、岡山新堀ギター・オーケストラが参加したことです。総勢30名のグループで、7月22日にコミーリャス市内の教区教会で演奏会を持ちました。スペインには1週間の短い滞在で、マドリードやトレド、そしてカンタブリア地方を観光、その合間を縫ってのリハーサル、そして演奏会と、かなりハードなスケジュールでしたが、演奏会は大成功に終わりました。日本の音楽(早川正昭の「日本の風景」や岡山民謡・中谷貞夫編「下津井節」など)が特に受けていました。アンコールの「アルハンブラの思い出」の後は満席の会場からスタンディング・オベーション。リーダー兼指揮の中谷貞夫氏は何度もステージに呼び戻されていました。グループがスペイン滞在中、私は通訳権マネージャーとして行動を共に(演奏会でも一曲共演)しましたが、演奏会での成功はもちろん、カンタブリアの美しい風景やおいしい食べ物にメンバーの皆さんがとても満足そうだったのが印象に残っています。
(ハッピ姿で日本音楽を演奏する岡山新堀ギター・オーケストラ)
ところで、前述のバイオリニストのアラ・マリキアンに関してですが、彼はアルメニア人の父母の下レバノンに生まれ、ドイツやイギリスで音楽の勉強を積み、現在はマドリードに在住、スペイン国内はもちろんヨーロッパでとても活発に演奏活動をしています。スペインでは今最も有名なバイオリニストの一人といえるでしょう。また、その同郷人セルゲイ・メスロピアンも非常に優れたチェリストで、アラ同様広く活動しています。このセルゲイと私はチェロとギターのデュオで、昨年日本で演奏ツアーをしました。
(アラ・マリキアン)
フェスティバルのプログラムからですが、7月20日のアラ・マリキアンとフラメンコギターのホセ・ルイス・モントンのデュオによるフラメンコ・コンサート(バイオリンとフラメンコギターの組み合わせというのは珍しい!)、7月27日の「アルメニア音楽の夕べ」、最終日7月31日のバッハ、モーツァルトやシューベルトなどの作品を演奏した室内オーケストラのコンサートなどが、特に評判がよかったようです。
私は、7月22日に岡山新堀ギター・オーケストラとビバルディのニ長調のコンチェルトをソリストとして共演したほか、7月26日の「室内楽の夕べ」に出演し、ロドリーゴの「祈祷と踊り」などのソロや、弦楽四重奏とともにボッケリーニの五重奏「ファンダンゴ」を演奏しました。ちなみに今年2005年はボッケリーニ没後250年に当たります。
来年の夏もこのフェスティバルは企画されています。皆様も「コミーリャス音楽フェスティバル鑑賞ツアー」のような形で、遊びにいらっしゃいませんか? 毎晩バラエティに富んだ質の高い音楽会を気楽に楽しめます。そして、コミーリャスを含むカンタブリア地方は海や山の美しい自然に囲まれ、また歴史的なモニュメントも数多くあり見るべきものが沢山あります。また、この地方の食べ物は何を食べても本当においしいです。コミーリャス市のシンボルになっているガウディ(そうです、バルセローナに建設中の「聖家族教会」のガウディです!)設計の「エル・カプリーチョ」(気まぐれ)という建物は現在高級レストランになっていて、今回の岡山新堀ギターの皆さんもゴージャスなフルコース・ディナーに舌鼓を打っていました。
第39回ターレガ国際ギターコンクール
毎夏ベニカシムで行われているターレガ国際コンクールの本選が、今年は9月2日に行われました。その結果をご報告します。今年は17カ国から合計46人の参加者があり、二つの予選を通過した4人が本選に残りました。
本選では、例年のとおりオーケストラとの共演でコンチェルト(ジュリアーニ、ビラロボス、ポンセ、ロドリーゴの「ある宴のための~」から選択)を1曲と、ターレガの作品を演奏することが課題でした。審査の結果は、次のとおりです。
第一位 | MICHALIS KONTAXAKIS(ギリシャ) |
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第二位&ターレガ賞 | FERNANDO ESPI(スペイン |
第三位&聴衆賞 | JORGEN SKOGMO(ノルウェー) |
ファイナリスト | MARCO TAMAYO(イタリア) |
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。今後もスペイン便りを続けていきたいと思います。どうかよろしくお願いします。
それでは、ごきげんよう。
髙木真介( Masayuki Takagi )
2005年9月5日、マドリード