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髙木真介の新スペイン便り
15.レオ・ブローウェル・トークショー・イン・マドリード、シグエンサ国際ギター・フェスティバル(2014.5.2)

皆様いかがお過ごしでしょうか? 久しぶりのスペインだよりです。え、これってまだ続いていたの?
とお思いの方々も多いかもしれませんが、はい、まだ続いていますので、どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。

レオ・ブローウェル・トークショー・イン・マドリード(音楽、ギター、人生に関して大いに語る)

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去る4月9日、マドリード唯一のギター専門店 “GUITARRAS DE LUTHIER” の店内で、キューバの巨匠レオ・ブローウェルのトークショーが開かれました。
75歳になるマエストロは元気な姿を見せてくれ、多岐に渡る大変興味深いトークを溢れんばかりに集まったスペインのギター関係者に聞かせてくれました。決して狭くはない店内のスペースには、予め招待された人のみが入場を許されるということでしたが、光栄なことに私もお招きをいただけました。
おそらく招待者は50名ほどに限定されていたように思われますが、このイベントを聞きつけて招待者以外のギター愛好家も多数集まってきたようで、仕事を終えてすっ飛んでいった私が開始時刻ギリギリに到着した際、大勢の人が店の外にごった返していました。
うわー、やっべー、これじゃ中に入れないのかも? と危惧したのも束の間、私の姿を見止めた店主のミゲール・アンヘル・カーノ氏は、嬉しいことに手招きで私を招き入れてくれました。中に入いるともう既に満杯状態で、やっとのことで残っていた最後の席にありつくことが出来ました。
しばらくすると、外で待っていた人たちも中に入れてもらっていましたが、当然のことながら立ち見ということになりました。おそらく合計80人ぐらいになったと思われます。スペイン国営放送ラジオ局クラシック専門チャンネルの専属ナビゲーターで、ギター音楽番組 “La Guitarra” を担当しているA. S. マングラーノ氏のMCにより紹介され、マエストロ・ブローウェルはにこやかに姿を表しました。上から下まで黒尽くめ、縞模様の入ったマフラーがアクセントになっていてとても粋な出で立ちです。マエストロに敬意を払う拍手が、暫くの間鳴り止みませんでした。

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(メールで送られてきた案内状)             (マエストロがサインしてくれた当日のプログラム)

にこやかに挨拶をしたマエストロは、「さて、何から話しましょうか?」と一言。絶妙なタイミングでマングラーノ氏のMCが入り、ギター演奏家として活躍していた頃のこと、手を壊して演奏活動を断念しなければならなくなったことなどに関して話してもらうように促しました。
マエストロは懐かしむようにその頃の話をはじめましたが、話し始めると思い出が次々と湧き出てくるようで、様々なことを話してくれました。
1981年の日本への演奏旅行のことも出てきましたが、その時の演奏を東京で聞いて大変感銘を受けた私にとっては感慨深いものがありました。それから数年後に手の故障でギターが弾けなくなったようですが、そのことをほとんど他人ごとのジョークのように面白おかしく話し、会場の笑いを誘っていたのにはとても驚きました。

「ギター演奏を断念しなければならなかったのは辛かったけど、その反面良かったこともたくさんありました。作曲活動に専念する時間ができたこと、後に指揮者として活動するための準備も出来ました」。

考え方がポッシティブなのですね!

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 会場からもいろいろ質問が出てくるようになり、作曲活動に関して、自身の作品に関して、ギター協奏曲に関して、著名な演奏家たちとの交流に関して、指揮者として、キューバ国内そして世界の音楽事情など、とても多岐に渡る話をユーモア交えてタップリ話してくれました。

経験豊富で才能ある世界を股にかけて活躍する音楽家、人望も厚く音楽以外の著名人とも広く交流があり、数ヶ国語を操るスーパーマンのようなマエストロ・ブローウェルのお話には、聞いている人たちの心を捉えてしまう不思議なマジックがありました。
ごくごくかいつまんで、特に印象に残ったことを以下に抜粋します。

・ある日ジュリアン・ブリームから突然連絡があり、ギター協奏曲(エレジアコ)を依頼されたこと。初対面の折のブリームの声色や英語のアクセントまでモノマネをしてみせ、会場は爆笑でした。
作曲から初演に至るまでの経緯。作曲しながらできたものを少しずつ郵送していた(インターネットがまだない時代だったので非常に不便で面倒だった)。交通事故の怪我による後遺症があったブリームの右肘の話、それにもかかわらずブリームの演奏が素晴らしかったことなど、を話してくれました。

 ・作曲を始めたばかりのまだ少年の頃、音叉を片手にラジオを聞きながら流れてくる音楽を片端から採譜していたそうで、これによってマエストロの聴音力が鍛えられた。狭い家に大家族で住んでいたので、夜はラジオの音量を絞りながらこっそりかじりつくように聞いていたそうです。

 ・若いころ、作品出版の契約を初めて交わしたのがドイツのSCHOTT社だった。契約書にサインする際、SCHOTT社所有の大きな立派な羽根ペンを渡され、ワーグナーがオペラ上演の契約書サイン時に使っていた由緒ある羽根ペンだと教えられた。

生まれて初めて大手楽譜出版社と契約するということより、大作曲家ワーグナーも使ったという羽根ペンを手に持ってサインをしたことに大いに感動した。はじめにその羽根ペンを見た時は、なんだか仰々しくて悪趣味だな、と思ったそうです。

・ギター協奏曲に関してギターの音量問題についての質問に対して、ギターの音を電気的に増幅することにはなんの抵抗もないし、実際そうしなければ聞こえないのだからむしろ奨励する、近年増幅装置の性能もどんどん良くなってきているしね。
と答えていました。ギター協奏曲はどうやらマエストロお気に入りの形式のようで、前出のブリーム初演の「エレジアコ協奏曲」や、ジョン・ウィリアムズ初演の「トロント協奏曲」、そして最新作の福田進一初演の「武満徹のためのレクイエム」などに関して、多くのことを語っていました。

・「今何を書いているかって? ヨーヨー・マのためのチェロ・コンチェルトだよ、彼は素晴らしい演奏家だね!」。と冗談っぽく、はにかみながら話していました。実際にあるプロジェクトなのかどうか、後で本人に確認を取ることを忘れてしまったことが悔やまれます。
ひょっとして近い将来、ブローウェル作のチェロ・コンチェルトが、ヨーヨー・マのチェロによって世界の何処かで初演される日が来るのかもしれませんね。

・多くの音楽を聴き、芸術作品に触れ、書物を読む。常に感性を鍛えることは非常に大切なことだ。見ざる、言わざる、聞かざる、の三猿のようになっては絶対ダメだ。と身振りを交えながら話してくれました。

話は尽きなかったのですが、アトラクションとして3人の若手ギターリストによるブローウェルのギター作品の演奏もこの後に控えていました。演奏者名および曲目を記しておきましょう。

–       Javier Garcia : 黒いデカメロン
–       Mabel Millan : ソナタ第3番
–       Deion Cho : 「子守唄」と「特性的舞曲」

3人共素晴らしい演奏を聞かせてくれ、マエストロもご満悦でした。特にマベル・ミリャンによる、難曲ソナタ第3番の演奏は印象的でした。しっかりしたテクニックと豊かな音楽性を持つ彼女は、まだどことなくあどけなさが残る若い美しい女性ですが、既に国際コンクール優勝の経歴もあり、将来を有望視される現在若手ナンバーワンのギターリストです。

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演奏後の3人の若手と一緒のマエストロ (photo by M.A.Cano)            チャーミングなマベル(photo by masa)

会場では、マリア・エステル・グスマンやフラメンコ・ギターの重鎮カニサレスなど、多くの著名人の顔も見られました。

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(photos by M.A.Cano)

マエストロの飾らない気さくな人柄には、皆すっかり魅了されてしまいました。ショーが終わった後も、挨拶やサイン、写真撮影など、一人ひとりににこやかに礼儀正しく応対している姿には心を打たれました。

 

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マエストロ・ブローウェルと記念に残るツーショット!(photo by M.A.Cano)

マエストロ・ブローウェルと間近に接することができた夢のようなイベントを企画、そして招待してくれた “GUITARRAS DE LUTHIER” の店主ミゲール・アンヘル・カーノ氏には心から感謝します。

 “GUITARRAS DE LUTHIER” は、スペイン内外の著名な製作家の良質な手工ギターを豊富に取り揃えたギター専門店で、マドリード市の中心地アトーチャ駅の近くにあり、同じ広場には、有名なピカソの「ゲルニカ」が展示されているソフィア王妃現代美術館や、マドリード王立音楽院高等科の校舎などが面しています。
このギター専門店はオープンしてからまだ3年ほどの新しい店ですが、既にマドリードのギター愛好家のメッカになっているようです。明るくて広い店内には、じっくり試奏できるコーナーも設けられています。また、この広いスペースを利用して、コンサートや講習会など頻繁にギター関係のイベントが開催され、ギター音楽普及に貢献しています。
マドリードにお越しの際には、是非覗いてみたらいかがでしょうか?URLを下に貼り付けておきます。  http://www.guitarrasdeluthier.com/index.htm

シグエンサ国際ギター・フェスティバル “GUITARRA FESTIVAL”

(2014年7月24日~26日)

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www.guitarrafestival.com

シグエンサは、マドリードの北東約130Km、グアダラハラ県にある中世の面影を残す美しい街です。小高い丘の上に、12世紀のお城を改修したパラドール(国営ホテルチェーン)の立派な建物がそびえ立っています。
この街に名工ロマニリョスが立ち上げた「ギター博物館」に関して以前にご紹介したことがありますので、ぜひご参照ください。
(新スペインペインだより、その9)

 このシグエンサで今夏7月24日から26日までの3日間、”GUITARRA FESTIVAL” と銘打った国際ギター・フェスティバルが開催されます。名工ホセ・ルイス・ロマニリョスの長男ぺぺ・ロマニリョスが、今回のギター・フェスティバルを企画しマネージメントしています。
クラシック・ギターのカルロス・ボネル、フラメンコのパコ・ペーニャを始め、ギリシャ出身の名女流ギターリスト、エレフテリア・コッチア、スペインからはナッチョ・ローデスとカルレス・トレパットの二人の名手がデュオを組んで出演します。
その他、フィリンピンからは美女ギター・トリオの”トリプル・フレット”、ベトナムからズー・リー、ノルウエーからクリスチーナ・などが参加します。そして日本からは、岡山新堀ギター・オーケストラも出演します。私もソリストとして共演させていただきます。
岡山新堀ギター(中谷貞夫主宰)は、2011年のスペイン・ツアー中ロマニリョス氏のお招きでこのシグエンサでもコンサートを行い、大成功を収めました。ぺぺから、「2014年夏にシグエンサで国際ギター・フェスティバルを企画しているのだけど、是非岡山新堀ギターの皆様にも出演していただきたいのだが、聞いてみてくれないか?」という電話をもらったのが今から2年ほど前でした。
今回のフェスティバルでは、シグエンサ市内にあるロマネスク様式の古いサンティアゴ教会が、全てのコンサートの会場(最終のガラ・コンサートはマヨール広場特設会場)になります。このサンティアゴ教会は長い間改修工事が施されていましたが、昨年ようやくその工事も終わり、新たに市の文化センターとして生まれ変わりました。
200席ほどのこじんまりしたホールですが、音響抜群のとてもよい雰囲気の会場になったようです。フェスティバル開催期間中3日間は、昼(12時30分)、夕(8時)、夜(10時半)の3つのコンサートが毎日予定されています。
7月24日の昼の部は、オープン・セレモニーとして、コンサートではなくホセ・ルイス・ロマニリョスの半生を描いたドキュメンタリー映画が初公開上映されます。26日の夜の部、つまりフェスティバル最後を飾るコンサートは、スペインではよく知られた弦楽四重奏団”STRADIVARIAS” (パロディ色が濃いながらも実力ミュージシャン揃い)や、英国の大人気ロック・グループ “Jay Scott & The Find” も出演するガラ・コンサートとなっています。

またフェスティバル中には、カルロス・ボネルなどの講習会や、ギター・フェアー、出演アーティストたちとの交流およびフォト・セッションなどもあり、大変盛り沢山の内容になっています。
詳しいことは、このフェスティバルのホーム・ページを御覧ください。www.guitarrafestival.com
チケット予約などもこのページからできるようになっています。

   なお岡山新堀ギター・オーケストラは、このシグエンサ・ギター・フェスティバル出演も含め、今回第4回目となるスペイン・ツアーを行います。公演日程は以下のとおりです。

・7月22日 TORREMOLINOS パブロ・ピカソ文化センター
・   23日 LINARES アンドレス・セゴビア博物館
・   24日  SIGÜENZA サンティアゴ教会(”Guitarra Festival” 出演)
・   25日 BUITRAGO DEL LOZOYA / MADRID ブイトラゴ城内Plaza de las Armas特設野外ステージ (第6回”Marqués de Santillana” 音楽フェスティバル出演)

岡山新堀ギターのホーム・ページURLは次のとおりです。 http://okayama-niibori.com

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(岡山新堀ギター・オーケストラと共演する高木真介)

 

         最後までお読み下さりありがとうございます。今夏はシグエンサのフェスティバルに参加するために、是非スペインへ観光がてら遊びにいらしてください。

              それでは、ごきげんよう。

マドリード、2014年4月28日 高木真介

Masayuki Takagi


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