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髙木真介のスペイン便り
22.マヌエル・バビローニ来日直前独占インタビュー (2002.3.9)

  皆様いかがお過ごしでしょうか。今回のスペインだよりは,ちょっと趣向を変えて,インタビュー記事を
 お伝えします。3月下旬から4月上旬にかけて来日公演を行なうマヌエル・バビローニに,いろいろ話を聞
 いてみました。

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 高木:いつごろ誰についてギターをはじめたのですか。

 マヌエル・バビローニ(以下MB):ビジャレアル(タレガの生地)出身の先生について,小さいころから始め
  ました。

 高木:音楽院やそれ以外のところでも何人かのマエストロに学んだと思いますが,どなたか特にお名前を挙
  げたい方はいますか。

 MB:何人かの先生に学んだけど,マエストロといえるのは一人だけです。それは,ホセ・ルイス・ゴンザ
  レスです。

 高木:マエストロ・ゴンザレスとの経験について話してください。

 MB:とても興味深いことばかりで,いつか本に書き記してみたいと思います。

 高木:CD録音についてですが,1枚目(タレガ,フォルテア,アセンシオ等のスペインのギター音楽作品集)
  は大変成功していますよね。いつごろ録音したのですか。それから2枚目も録音済みだと聞きましたが,発
  売はいつごろですか。

 MB:1枚目は今から5年前に録音しました。2枚目はもうすぐ発売されます。

 高木:その1枚目のCDに関して多くの賛辞が寄せられていますが,英国のギター誌「クラシカル・ギター」に
  掲載された「今まで聞いた中で最高のタレガ作品の録音」という批評は特筆できますね。あなたと同郷人であ
  る偉大なギターのマエストロ,F.タレガに対して特別な愛着と賞賛をお持ちだと思いますが,タレガの人物
  像,音楽等について話してください。

 MB:タレガは,ギターの奏者として,編曲者として,そして大いに感動的な内容を伴った作品の作者とし
  て,ギターを表現力の極地まで高めました。

 高木:今年はタレガの生誕150年にあたりますが,あなたの住むカステジョンやタレガの生地ビジャレア
  ルで何か特別演奏会のような予定はありますか。

 MB:皆様がこのインタビューを読んでいる頃には,2つの演奏会を終えた後でしょう。

 高木:1983年,ベニカシムのタレガ国際ギターコンクールにおいて,あなたはタレガ特別賞を受賞しま
  した。実はそのとき私は聴衆の一人として本選会の会場にいました。あなたの演奏も聞いたのですよ。古い
  野外の映画館で多くの聴衆の前で行なわれましたね。あなたが覚えているかどうかわからないけれど,井上
  幸治氏(アルコイ在住の日本人ギターリスト)も本選出場者の一人でしたが,それはものすごい演奏をしまし
  た。私は,井上氏がてっきり1等賞を獲得すると確信していましたが,結果はそうではありませんでした。
  あの場に居合わせたマエストロ・ゴンザレスのご立腹振りといったら…。でもタレガ賞部門のほうの結果は
  まったく正当だったと思います。今でも覚えているのですが,聴衆はみんなあなたのことをとても応援して
  いたし,なんと言ってもあなたにとっては地元,いわばホームグラウンドで戦っていたようなものですが…,
  でもそれだけではありませんでした。いまだに,あなたの非常に繊細で優しい,そして愛情のこもったすば
  らしい「アデリータ」の演奏が私の脳裏に焼き付いています。

 MB:私も井上氏が優勝してしかりだったと思います。でもコンクールというのは,往々にして論争を起こ
  す裁定が下されるものです。

 高木:近況のことに話題を移しましょう。世界中でフェスティバルに参加したり,リサイタルを行なったり
  と大変活発に演奏活動をされていますが,年間にどのくらいの演奏会を持っていますか。

 MB:数えたことありません。

 高木:どのような基準で演奏会のプログラムを組んでいますか。

 MB:人前では,自分が深く愛していない曲は決して演奏しません。本当に難しいのは,(聞いている人と)
  コミュニケートする術と,それと同時に,容認される演奏の質を兼ね備えるということだと思います。

 高木:日本公演でのプログラムについて何かコメントすることがありましたら,どうぞ。

 MB:生誕150年にちなんで,プログラムの前半のほとんどはタレガの曲に当てています。そしてトゥリ
  ーナの「セビージャ幻想曲」。後半は,ビラロボスやグラナドスの作品以外,カタルーニャ出身の作曲家ジョ
  セップ・パスクアルのソナタ ~2年前に私のために書いてくれた作品です~ などを演奏します。

 高木:演奏活動,カステジョン音楽院ギター科教授のほかに,さまざまなところから講習会の依頼があるよ
  うですが,定期的に行なっている講習会はどのようなものですか。

 MB:カステジョンで,年3回に分けた集中講座をしています。これはカステジョン市内の公共および私的
  機関からの援助を受けて運営されています。それから,毎夏にはエステージャで,「ホセ・ルイス・ゴンザレ
  ス・メモリアム国際講習会」を担当しています。(以前はマエストロ・ゴンザレスが受け持っていたもので,
  マエストロ亡き後バビローニ氏があとを受け継いでいる)。それから,1999年以来,ビラファメス(カス
  テジョン近郊)でも,毎夏講習会を行なっています。その他,時折スペイン国内外から依頼を受けています。

 高木:教えるにあたってあなたにとってどんな面が一番重要ですか。どんなメッセージを生徒に伝えたいで
  すか。

 MB:三つの基本的な面があります。音楽,音楽そして音楽です( “la musica, la musica y la musica” )。
  私にとって楽器自体より音楽のほうが重要なのです。

 高木:ギターのどのような特性に一番惹かれますか。

 MB:難しさ,です。

 高木:今回で2回目,ひょっとして3回目? の日本訪問になりますね。日本に関してすでに多少なりとも
  ご存知でしょう。日本について何か一言。

 MB:これで3回目になります。日本はとても興味深い国です。しかも,友人が多くいて,そして私の音楽を
  楽しみにしていてくれるすばらしい聴衆がいる国に滞在することは,素敵なことです。

 高木:それでは,あなたの訪問を首を長くして待っている日本のギター愛好家の皆様に何か一言お願いします。

 MB:ギターのための音楽において,最も美しいページの何枚かを皆様と共有できればと思っています。私は,
  皆様がそれを楽しむすべをご存知だと確信しています。

 高木:親切に対応してくれてありがとうございました。私の祖国での幸運と快適な滞在を祈っています。

 MB:こちらこそ,ありがとう。

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      (マヌエル・バビローニと筆者)

 4月2日に,アウラ主催のマヌエル・バビローニ講習会があります。ぜひ皆様も参加されることをお勧
 めいたします。私は昨年夏,ビラファメスでの彼の講習会を覗いたのですが,あらゆるレベル(初級の子供,
 腕の立つオバさん,音楽学生,プロ…)の生徒がいて,その一人一人に実に的確なアドバイスをしていたの
 が印象に残っています。著名なギターリストの講習会だからといって,肩肘を張る必要はまったくなく,
 気楽な気持ちで受講なり聴講なりされると良いでしょう。おおらかな人柄と幅広い音楽観を持ったマヌエ
 ル・バビローニから学ぶものは,非常に多くあると思います。
 最後に,最近スペイン留学を終えて帰国したギターリスト,東隆幸氏(留学中はバビローニの指導を受け,
 また彼と非常に親しい付き合いを持つ)のマヌエル・バビローニに関するメッセージを添えて,今回のス
 ペインだよりを終わりにします。

 それでは皆様,ごきげんよう。
                          髙木真介,2002年3月6日,マドリード
                           Masayuki Takagi

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  スペイン留学でマエストロ・バビローニとの出会いは音楽観、そして人生観まで変わるくらいの影響を
 受けました。それは決して自分を飾らない自然体で接してくれたからだと思います。「ギタリストである
 前に、まず人間である。」という言葉は今でも心に残っています。そんなマエストロの親身で的確なレッ
 スンは分かりやすく、講習会でもほとんどの受講生が、演奏や音色がその場で良くなることです。マニュ
 アル通りの押し付けではなく、生徒1人1人の長所を生かす教え方やクラスの後、練習意欲を持たせる教
 え方などがその秘密だと思います(常に前向き、プラス思考なのです)。実際に今でも彼の講習会にはあ
 らゆるレベルの、そして幅広い年齢層の生徒達で賑わっています。                 
  留学時代には数多くのギタリスト、教授に教わる機会を得ましたが、彼ほど真剣に向き合い、考えてく
 れる先生にめぐり会う事はありませんでした。 ( 東 隆幸 )                 
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   (バビローニのレッスンを受ける東氏)


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