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髙木真介のスペイン便り
3. 第33回 F.タレガ国際ギター・コンクール (1999.9.7)

 皆様,こんにちは。お元気ですか。久しぶりのスペインだよりですが,今回は,通称タレガ・コンクールについてお伝えいたします。このコンクールは毎年,8月下旬から9月はじめにかけて,CASTELLON県BENICASSIMという海岸のあるとても美しい町で行われます。良く知られたリゾート地で,夏は避暑の人々で大変賑わいます。そして,このコンクールは,この町の夏の終わりのビッグ・イベントになっています。また,VILLAREALという町が近くにありますが,そこがタレガの生まれた町です。タレガの生家,彼の博物館,そしてお墓がその町にあります。

 コンクールは,一次予選,二次予選,そして本選の3つのステップに分かれています。今年は,世界中から,33人の参加者があり,12人が,二次予選に通過しました。二次予選は,8月30,31,9月1日の3日間で行われ,各日4人ずつが演奏会形式で演奏しました。そして,本選に4人の奏者が選ばれました。本選は,9月3日,市立劇場で行われました。この本選の様子を少々詳しくリポートいたします。生意気ですが,私の感想なども交えたいと思います。

 本選では,オーケストラとコンチェルト1曲(下記の4曲から選択)と,タレガの作品を5~8分で一曲ないし数曲演奏することが義務付けられています。

<コンチェルト>

1) 協奏曲イ長調Op.30 … M.ジュリアーニ

2) 協奏曲ニ長調Op.99 … M.カステルヌオボ・テデスコ

3) ある宴のための協奏曲 … J.ロドリーゴ

4) 悲歌風協奏曲 … L.ブローウェル

 次に,本選に出場した奏者の名前と国籍,及び演奏曲目(①選んだコンチェルトの作曲者名,②タレガの作品名)を演奏順に記します。

+ GRAHAM DEVINE ( イギリス )  ①ブローウェル ②アデリータ,ワルツ「二人の姉妹」

+ RICARDO JESUS GALLEN GARCIA ( スペイン ) ①ロドリーゴ ②アラビア風奇想曲,涙

+ JOSE ANTONIO ESCOBAR ( チリ ) ①ブローウェル ②アラビア風奇想曲

+ LAURINE PHELUT ( フランス ) ①テデスコ ②『椿姫』による幻想曲

 午後10時過ぎに始まった本選会の会場である市立劇場には,たくさんの人が詰めかけて,約500席が満席になっていました。国営放送のカメラも設置されていました。近日,テレビ及びラジオで放送されるでしょう。オーケストラは,”ヨーロッパ・シンフォニー”,指揮は,ルーマニア出身で現在はBARCELONAを中心に活動している,CRISTIAN FLOREAが,コンチェルトの共演をしました。審査委員は,委員長のROBERTO AUSSELを筆頭に,FRANCIS KLEYNJANS, NOBERT KRAFT, LUIS MORLES GIACOMAN, IGNACIO RODES,鈴木一郎(以上ギタリスト)および,MIGUEL GROBA(指揮者)が務めました。

 さて,一番手に登場したGRAHAMは,イギリス出身で今ブラジルに在住,南米諸国で演奏活動しているギターリストです。会場の雰囲気がまだ固く,彼も大変緊張した面持ちでステージに現れました。大変がっしりしたラグビー選手のような体格ですが,それに似ず,とても繊細な音で弾き始めました。美しい音ですが,音量が弱く,オーケストラの音に飲み込まれてしまう部分もありました。きちっと丁寧に弾いていましたが,全体的に盛り上がりにかける演奏のまま,曲が終わってしまいました。タレガの作品の演奏は,2曲目のワルツをとても楽しい雰囲気で弾きました。

 二番手は,スペイン人RICARDOの登場です。既に今までに,数多くの国際コンクールで,優勝もしくは入賞を果たしているギターリストです。とても落ち着いた感じで出てきました。大変好感が持てるステージ・マナーです。弾き始めて,まず驚いたのは,その音量です。力任せではなく,とても自然体に弾いていて,楽器をうまく響かせている感じがします。指揮者とのコミュニケーションもすばらしく,優れたアンサンブル感覚を示しました。速いいパッセージが随所に出てきますが,何の苦もなく,それどころか,すべての音をとても音楽的に演奏します。最近亡くなったロドリーゴのスペイン的な曲ですし,唯一のスペイン奏者ということも手伝って,聴衆の熱狂ぶりはすごかったです。彼は熱い拍手に礼儀良く応えていました。続くタレガの作品では,ロマンティック・ギターに持ち替えての演奏でした。端正な音で弾いていましたが,楽器を替えた意味というか,彼がしたかったことの真意が,残念ながら伝わってきませんでした。

 長い休憩の後,チリ出身のJOSE ANTONIOが出てきました。雰囲気がなんとなく暗い感じ。とてもはっきりした音を持っていて,テクニックもしっかりしています。ただ,表現の幅が狭いというか,やや平坦な感じです。リズム感はとても良く,また,指揮者と頻繁に合図を交わして,オーケストラとうまく合わせていました。タレガの作品は,特別何もなく終わってしまったという感じです。

 最後は,唯一の女性奏者で,フランスのLAURINEです。調弦に手間がかかって,なんとなく不安な印象を与えましたが,良い意味で女性らしい表現で,柔軟な奏者だなと思いました。ただ所々,フレーズが短く途切れ勝ちになったり,オーケストラとのアンサンブルが,ちょっと悪くなってしまうところもありました。もっとも,このコンチェルトに関しては,オーケストラの演奏がお世辞にも良かったとは言えず,彼女にとって演奏しにくかったみたいで,かわいそうでした。それでもソロの部分など,聞かせどころはしっかりと演奏していました。そして,タレガの作品で,この人の良さがすべて発揮されました。きっと,以前から演奏しているレパートリーで,いわば彼女にとって”十八番”なのでしょう。特にフィナーレの盛り上がりはお見事でした。

 さて,審査結果をお知らせする前に,このコンクールの賞および,賞金などを記します。

第一位  ・賞金160万ペセタ(約130万円)
・CDの録音
・バレンシア自治州主催の演奏会3回
・ バレンシア音楽堂でのリサイタル1回

第二位  ・賞金80万ペセタ(約66万円)

タレガ賞 (タレガ作品における最も優れた演奏にたいして)
・ 賞金40万円(約33万円)

聴衆賞 (観客の投票による)
・ 賞金27万5千ペセタ(約23万円)

 何の賞をもらえなかった本選出場者には,16万ペセタ(約13万円),また,第二次予選出場者には,7万5千ペセタ(約6万2千円)が,主催者より支払われる。

それでは,お待たせしました。審査結果の発表です。

『第一位』は,RICARDO J. GALLEN GARCIA。同時に,『聴衆賞』も受賞。

『第二位』は,LAURINE PHELUT。同時に,『タレガ賞』受賞。

 他の二人は,ファイナリストとして表彰されました。個人的には,妥当な結果だったといえると思います。第一位のRICARDOは,ダントツだったと思います。聴衆の投票ももちろん群を抜いてトップでした。音楽表現,テクニック,音質,音量,どれをとっても,とても高い次元で完成された演奏家だと思います。また,ステージ上で華もありますし,きっと近い将来,一流の演奏家として,世界中で活躍するようになると思います。タレガ賞は,LAURINEしか考えられませんでしたが,審査員も満場一致でこの結果が出ました。第二位という大きな賞を取れたのも,『椿姫~』のすばらしい演奏が高く評価されたからでしょう。私は,ひょっとして第二位は,チリのJOSE LUISかなとも思っていました(会場内には,そう思っていた人たちもいて,この第二位の結果に不満を表している人たちもいました)。それから,第一位のRICARDOに比べ,他の3人がどんぐりの背比べ状態になってしまったため,第二位は空位もあり得るかな,なんても考えていました。審査結果が出たのは,既に夜中の二時になっていましたが,会場からは,演奏した4人に対して,暖かい拍手がいつまでも送られました。私個人としては,コンクールというより,ひとつのコンサートを聞きに行くようなつもりで行きましたが,とても楽しむことができました。ひとつのイベントとして,とても良く運営されているな,という印象も受けました。本選会場も満席状態で,当日フラッと寄った私は,たまたま余っているチケットを持っていた人に譲ってもらって,入場することができました。本当にラッキーでした。実際チケットを持っていず,入れなかった人もかなりいたようです。面白いことに,こういう人たちのために,会場の隣の広場に,大きなスクリーンと,スピーカー,椅子などが設置されていました。また,二次予選出演者にギャラが出るなど,主催者側の参加者に対する態度が,とても好意的だと思います。

 このコンクール,参加資格は,32歳以下であることですが,日本からの若いギターリストの多くの参加を期待しています。腕に自身のあるキミ,がんばってみない? それから,とてもいい季節ですし,バケーションをかねて,この素敵な海岸のある美しい町BENICASSIMに,コンクール鑑賞ツアーなど組んでみてもよいのでは…。タレガのゆかりの地VILLAREALもすぐ近くですし。

 というわけで,今回のスペインだよりは,『第33回F.タレガ国際ギター・コンクール』の様子をお伝えしました。これからよい季節になります。皆様,健康に気をつけて,ギターを楽しんでください。また近々お目にかかりましょう。

 高木真介,1999年9月5日,マドリード
MASAYUKI TAKAGI


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